学びを大切にする民族 ユダヤ人とユダヤ教、幼児教育の力-前半

以前、幼児教育の重要性を主張したジェームズ・ヘックマンについての記事を書きました。彼はアメリカ人で2000年にノーベル経済学賞を受賞しています。ノーベル賞は今までに約970名ほど受賞者がいますが、どこの国が一番多く受賞しているでしょうか。
ー答えはもちろんアメリカ合衆国で、今までに400人以上後受賞しています。続いてイギリスが100人程度で、ドイツが80人程度・・・日本は30人程度です。。国別でのノーベル賞受賞者は圧倒的にアメリカが多いことになります。
では、どの「民族」の受賞が多いでしょうか。ゲルマン系、アングロサクソン系、ラテン系、漢民族・・・・。これは圧倒的にユダヤ系の人たちで、世界一です。ユダヤ系の人たちの人口は世界の人口に比してわずかに0,2%程度です。それではノーベル賞受賞者約970名の中に「ユダヤ系」の人たちは何人いるのでしょうか。
ー答えは「216人」です。つまり世界の人口の「0,2%」の民族の人たちが、ノーベル賞受賞者の「22%」を占めているのです。受賞者数に対するユダヤ系の人たちの賞別の割合ですが、物理学25%、医学生理26%、経済学に関してはなんと41%です。やはり金融、経済には強い!ちなみに平和賞は8%です。平和賞は他と比べれば少なく感じますが、それでも多いです。日本民族は佐藤栄作元首相1人だけですから(2024年に受賞した日本被団協など組織は抜いています)。
理由は何でしょうか。「DNA」か「つらい歴史と、その逆境から出る強さ」なのか・・・いろいろな要素があるかもしれません。ただ、ひとつ外せない注目すべき点があります。それは彼らが「教育」や「教養」を何より大事にしていることです。
今現在、ユダヤ民族の人たちが作ったイスラエルにおいてはかなり悲しい現実がありますが、今日はそういった時事問題にせまるのではなく、ユダヤの方々が大事にしている「教育」「教養」について考えてみようと思います。
(以前書いたノーベル経済学賞を受賞したヘックマンの記事です。彼も幼児教育の重要性を説いています。https://lycopo.com/「幼児教育は最高の投資」ヘックマンが証明する/)
ユダヤ人とは?宗教と文化の背景
ユダヤ人とは、古代イスラエルに起源を持つ民族・宗教的共同体を指します。ユダヤ人の多くは「ユダヤ教」を信仰しており、これは世界最古の一神教のひとつであり、旧約聖書が聖典となっています。ユダヤ教は唯一神ヤハウェを信じ、「トーラー(律法)」と呼ばれる教典を中心に生活や倫理を形づくっています。この「トーラー」は彼らの「教育」において重要なキーとなります。
ユダヤ人の歴史と言えば、ナチスドイツによるホロコースト(大量虐殺)で有名ですが、それ以前から彼らは迫害を受け土地を追われてきた歴史があります。
ユダヤ人が迫害を受けた理由として、ひとつは宗教的理由です。
中世ヨーロッパでは「イエスを十字架にかけたのはユダヤ人だ」という誤った考え方が広まり、ユダヤ人は「神殺しの民」と非難され、キリスト教徒から敵視されるようになります。
さらに、祖先や親から伝えらている信仰を大事にする彼らは宗教的、民族的な同化を拒否していました。結果として「ディアスポラ(離散)」という古代ローマの政策によって、エルサレム神殿は破壊され、ユダヤ人は世界各地に世界各地に散らばり、「同化しない」少数のユダヤ人は差別されるようになります。
そして土地を追われますが、土地を持たない(つまり畑や工場などの「生産手段」を持たない)彼らも生きていかねばなりません。そこで彼らが着手するのが「金貸し業」です。
中世のキリスト教会は、利子を取ってお金を貸すことを「罪」とみなして禁止していました。聖書は同胞からに利子を取ってはならないとしており、またイエス自身も「金銭欲」や「神殿での両替人」を厳しく批判していました。
逆に言うと、キリスト教徒がやらないからこそ、ユダヤ教徒が行うことができたと言えます。実際、例えば貴族は外部との戦争や権力闘争での戦争では莫大なお金が必要です。庶民は不作や戦争などで、困窮し、金を借りなければ生きていけないこともありました。
倫理的に禁止されているとはいえ、「金貸し」の需要は高かったのです。彼らはこの「金融」の力によって力をつける一方、差別や迫害を受け続けることになります(金貸し業は漫画の『ウシジマくん』にも描かれているように、実際にはとても大変な生業です。貴族や庶民からも踏み倒され、逆切れされ、感謝されるどころかさらなる迫害を呼んでしまうことも多々あったようです)。
例えば、シェイクスピアの『ベニスの商人』に登場するシャイロックもいわゆる当時の「典型的な」ユダヤ人として描かれています。冷酷な高利貸しとして描かれ、主人公アントーニオに対して「肉1ポンド」を担保にするという極端な契約を結び、結末では財産を没収され、キリスト教への改宗を強いられるという屈辱的な処遇を受けます。
そこにはキリスト教徒であるヨーロッパ人から見たユダヤ人のリアルな姿が描かれています。
これは現代の映画ですがアカデミー賞も受賞している『戦場のピアニスト』はナチスによるホロコーストを描いています。もちろんこの作品もホロコーストを悲劇として扱っていますが『シンドラーのリスト』と違い、ユダヤ人のお金に対するこだわりの強さという一側面を描くシーンが登場します。
ユダヤ人が集まり、貨幣をテーブルに投げて、その音に耳をすます・・・・この貨幣は「混ぜ物」が入っていないか確認するシーンがあります。
わずかな時間のシーンですが、こちらも当時(第二次世界大戦あたり)のヨーロッパの人たちの視点も描かれていて興味深いです。
※金貸し業が嫌われているのはヨーロッパだけではなく、世界共通しています。日本でもお代官様と悪だくみを行う「越後屋」は高利貸しとして描かれます。自ら体を動かさない(生産をしていない)職業はどの国でも「楽して儲けている」人間として、昔から忌み嫌われていたのでしょう。
彼らの歩んできた歴史は複雑で、書きたいことはまだまだたくさんありますが、今回は「教育」に焦点を当てたいので、これで終わります。
こちらのサイトは私のものと違い、分かりやすくユダヤ教の歴史や宗教観を伝えています。https://spaceshipearth.jp/judaism/?

教育を大切にするユダヤ人
しかし、土地を追われ迫害を受け続けてきたユダヤ人はなぜ現代でも生き残り、大きな影響力を及ぼすようになったのでしょうか。ヨーロッパから迫害を受け、土地を追われた彼ら、彼女らは必死に生き残ろうとした、その逆境こそがユダヤ人を強くしたのかもしれません。
そして、そんな彼らの支えになったものこそ「教え」であり「幼少からの教育」なのです。
先ほどユダヤ教の説明を少ししましたが、重要な点はユダヤ教という宗教が単なる信仰にとどまらず、生活・文化・教育のあらゆる場面に深く根付いているという点です。ユダヤ教徒は、家族や地域のつながりを大切にする一方で、学びや議論を通じて子どもたちに知恵を伝えることを非常に重視します。
聖典である旧約聖書には
・「教養をしっかりと身につけ、それを手からはなすな。それを守れ、それはあなたの生命なのだから。」(格言の書4章)
・「本を読んで学問を積むのは、義務ばかりでなく、ひとたび知識も持てば・・・他の人々にも役立てなばならない(集会の書序文)
・「知恵を見出した人、分別をもつ人はさいわいである。かれがそれをもうけたことは銀をてにいれたことよりも値打ちがあり、その収入は純金よりも高価である」(格言の書3章)
「教養を身につけ、伝えていくことの重要さ」が旧約聖書の多くの部分に記されています。苦難の歴史の中で、ユダヤ人は「奪われても決して失われないもの」、つまり知識や教養、それを伝えていくこそが最大の財産であると強く信じていました。
まとめると、ユダヤ人社会では、次のような教育観が根づいています。
- 知識は奪われない財産
財産や土地は奪われても、学んだ知恵やスキルは奪えない。 - 質問と対話を重視
学びは一方通行ではなく、問いかけや議論を通して深まるもの。 - 家庭教育の重視
家庭が最初の学校。親が子に語りかける習慣を大切にする。
これらは、現代の教育学でも非常に有効とされる考え方です。
長くなり過ぎましたので、残りは明日にします。
今回はユダヤ人の歴史が主になってしまいました。その苦難の歴史を乗り越え、現代でも大きな力を持つ彼らの強さは「教育」「教養」であることを今回はお伝えしました。
明日は最後に少し触れましたユダヤ人が大切にしている幼少からの「教育」に焦点を当てお伝えします。
参考資料『ユダヤ人の教養』大澤武男