「見る・触る・感じる」が学びのはじまり ピアジェ理論の感覚運動期

本日は昨日のピアジェの理論の中から「感覚運動期」についての話です。
赤ちゃんが自分の手をじっと見つめたり、何でも口に入れたり、同じおもちゃを何度も落としては笑う――そんな行動のひとつひとつには、実は“学び”が詰まっています。
心理学者ジャン・ピアジェが提唱した「感覚運動期」は、まさにこの“体験の科学”の時期にあたります。言葉はまだ話せなくても、子どもたちは五感と運動を通して、世界を発見し、法則を自分なりに見出していきます。
本記事では、ピアジェの発達心理学の基本をおさらいし、感覚運動期の6段階をわかりやすく解説し、親として・教育者として何に気を付けるべきかを考えます。
ピアジェの発達心理学のおさらい
●「子どもは小さな科学者」である
ピアジェは、発達心理学の礎を築いたスイスの心理学者です。彼は、子どもが単に情報を受け取る存在ではなく、自ら環境と関わりながら“知識を構築する存在”であると考えました。
この理論は「認知発達理論」と呼ばれ、知的発達を4つの段階(感覚運動期・前操作期・具体的操作期・形式的操作期)に分けて説明しています。
●学びのメカニズム:「同化」と「調節」
ピアジェは、学びを「同化」と「調節」という2つの働きで説明しました。
- 同化:新しい経験を既存の知識枠組みに取り込むこと
例:赤ちゃんが“ボール”を見て、「丸い=転がる」と理解する。 - 調節:新しい経験に合わせて枠組みを修正すること
例:同じ丸いものでも「リンゴは転がらない」と気づくことで、概念を再編成する。
この2つのバランスによって、人は絶えず“より正確な世界のモデル”を作っていきます。
ピアジェについての記事です。リストなどを作って詳しく分かりやすくまとめています。
子どもは“小さな科学者” ピアジェの発達段階理論と幼児教育の関係
感覚運動期とは:生まれてから2歳までの「行動の知能」
感覚運動期は、誕生からおおよそ2歳までの時期を指します。
この時期、子どもはまだ言葉を使わず、感覚(見る・聞く・触れる)と運動(掴む・動く)を通じて外界を理解していきます。
ピアジェは、この時期を「行動で考える段階」とも呼び、子どもが“行動実験”を通じて世界の法則を発見していくと考えました。
たとえば、赤ちゃんが何度もスプーンを落とすのは、単なる遊びではなく、「落ちると音がする」「人が拾う」といった因果関係の学習なのです。
感覚運動期の6つの段階(ピアジェによる分類)

ピアジェは上記の4つに分けられた発達段階理論の中の「感覚運動期」を、さらに6つの下位段階に分け、発達の流れを細かく説明しました。以下の表にまとめます。
段階 | 時期(目安) | 特徴 | 具体例 |
---|---|---|---|
第1段階:反射運動期 | 0〜1か月 | 吸う・握るなど、生得的な反射行動で世界に反応する | 乳首を吸う・手に触れたものを握る |
第2段階:一次循環反応期 | 1〜4か月 | 自分の体の中で偶然生じた行動を繰り返す | 指しゃぶり・足をバタつかせる |
第3段階:二次循環反応期 | 4〜8か月 | 外の物体との関わりに興味を持ち、行動を繰り返す | ガラガラを鳴らす・物を落として楽しむ |
第4段階:二次循環反応の協応期 | 8〜12か月 | 手段と目的を意識的に結びつける。物の永続性の理解が始まる | 覆われたおもちゃを探す・親の表情を読む |
第5段階:三次循環反応期 | 12〜18か月 | 新しい行動を試して結果を確かめる。探索行動が活発になる | 物を投げて音や反応を観察する |
第6段階:表象的思考期 | 18〜24か月 | 行動を頭の中でイメージできるようになり、模倣や言葉が登場 | ごっこ遊び・「いないいないばあ」の理解 |
●ポイント:物の永続性
感覚運動期の中でも重要な発見が、「物の永続性」の理解です。
これは、「目の前から消えても、その物体は存在し続けている」という概念で、8〜12か月ごろに形成されます。
この理解が生まれると、赤ちゃんは「ママが部屋を出ても、いなくなったわけではない」とわかるようになり、分離不安や愛着の芽生えにもつながります。
保育マイナビ「ピアジェの発達段階を保育で活かす方法」
感覚運動期の三次循環反応などピアジェの理論が分かりやすく整理されています。
幼児教育と感覚運動期:五感の体験こそが“知の土台”
感覚運動期は、後のすべての知的発達の「基礎作り」の時期です。
この時期に十分な感覚経験(見る・聞く・触れる・味わう・動く)を積むことが、脳の神経回路を発達させ、非認知能力(集中・探究心・自己調整)の芽を育てます。
●教育のポイント
- 安全な環境で自由に探索できる場を作る
転倒や汚れを恐れず、探索を止めないことが大切です。 - 五感を刺激する素材やおもちゃを選ぶ
木の積み木、水遊び、布や紙など、自然素材が望ましい。 - 模倣・リズム遊びを取り入れる
「いないいないばあ」や手遊び歌は、感覚と社会性をつなぐ大切な橋渡しです。 - スキンシップを大切にする
抱っこや語りかけは、子どもの安心感を育て、探索意欲を支えます。
感覚運動期は、知識を“手でつかむ”時期です。
目で見て、手で触れて、音を聞き、匂いを感じる―この五感を通じた体験こそが、将来の論理的思考や社会性の礎となります。
親がすべきこと・気を付けること
●「させる」より「見守る」
感覚運動期の子どもは、“自分で発見する”ことでしか学べません。
親が過干渉になると、探索の機会を奪ってしまいます。
危険がない限りは、「どうするのかな?」と少し見守る姿勢が成長を促します。
●「汚れる」「壊す」を恐れない
感覚運動期の探究行動には、失敗がつきものです。
それは“混乱”ではなく“学びの実験”。
「ダメ!」よりも、「どうなったの?」「おもしろいね」と共感してあげることで、子どもは自信を持ちます。
●「繰り返し」に意味がある
同じことを何度もするのは、飽きているのではなく、理解を深めている証拠。
大人が退屈に感じても、子どもにとっては“検証実験”なのです。
※子どものほめ方も意識するといいです。
子どもを伸ばす正しい「ほめ方」―才能ではなく努力を認める
Q&Q(まとめ)
Q1:感覚運動期の子どもは何を通じて「学ぶ」のでしょうか?
A: この時期の学びは、五感と体の動きによって行われます。赤ちゃんは「見る」「触る」「舐める」「聞く」「動く」といった体験を通して、世界の法則を発見しています。大人が教えるというよりも、自分で“実験”しながら知識を構築していくのが特徴です。
Q2:「物の永続性」とは何ですか?
A: 「物の永続性(Object Permanence)」とは、物が見えなくなっても存在していることを理解できるようになる概念です。たとえば、布の下に隠したおもちゃを探し始める行動がその証拠です。この理解はおおよそ8〜12か月頃に芽生え、知的発達の大きな一歩になります。
Q3:親は感覚運動期の子どもにどんな関わり方をすればよいですか?
A: 「危なくない範囲で自由に探索させる」ことが最も大切です。触る、投げる、舐めるといった行動にはすべて意味があります。過剰に「ダメ!」と止めるのではなく、「どうなったかな?」「おもしろいね」と共感的に声をかけることで、好奇心と安心感が育ちます。