学びを大切にする民族 ユダヤ人とユダヤ教、幼児教育の力-後半

昨日に続き、生まれた手からの「教育」「教養」を大事にするユダヤ人についてです。
ユダヤ人は世界人口の0,2%に対して、ノーベル賞受賞率5人に1人以上(約22%)をほこる彼らは、協議に基づく教えを守り、子どもたちに伝えています。
苦難の歴史を歩み、土地や生産手段を奪われた彼らは「知識は奪われない財産」「質問と対話を重視」「幼児からの教育」という教育観で道を切り開いてきました。
ユダヤ教に根差した教育の伝統とは何か。ユダヤ人の家庭や学校では、知識を暗記するだけではなく、「なぜ?」「どうして?」と問いかけ、対話を重ね、批判的に考える力を育むことを大事にしています。その根底にあるのが、ユダヤ教の聖典トーラーと、解釈と議論の集大成であるタルムードです。
ユダヤ人家庭では、生活が苦しい状況でも「教育費だけは削らない」と言われます。そんな彼ら、彼女らはまず家庭内での学びを重視し、知識と対話に惜しみなく時間をかけます。
本記事では、ユダヤ教の教育観をひも解きながら、現代の子育てや幼児教育に活かせるポイントをご紹介します。
(前回の記事 https://lycopo.com/学びを大切にする民族-ユダヤ人とユダヤ教、幼児/)
トーラー 学びの源泉
トーラーとは何か?
トーラーとは、ユダヤ教の根本聖典であり、モーセ五書(創世記・出エジプト記・レビ記・民数記・申命記)を指します。これは単なる宗教書ではなく、生活規範や道徳教育の基礎となる「学びの手引き」です。
「すべてのユダヤ人は物心がつけばもうモーセ五書に書いてあることは、神の命令と考えており、それを遵守することは当然であり、必要とあればそのために喜んで死にさえもする」と、ユダヤ人は生まれた瞬間からトーラーと触れあい、覚え、いつのまにか読み始めています。
トーラーはヘブライ語で書かれていて、五巻からなり、187章5,845節 304,805文字あります。日本語の文庫本にすると400〜500ページくらいのものです。「304,805文字」この数字はユダヤ教において非常に重視され、トーラー写本の正確さを検証する基準にもなっています。1文字でも間違いがあると、その巻物は儀式に使えません。
この分量を一度に理解するのは難しいですが、ユダヤ人の子どもたちは少しずつでも日々触れながら、「学びは積み重ねで身につく」という姿勢を自然に体得していきます。
そして、子どもたちにとってこのトーラーのボリュームそのものが、忍耐力・記憶力・批判的精神を鍛える教育ツールとして機能しているのです。
トーラーの学習スタイル
- 暗唱だけでなく、家族や教師と「声に出して読む」ことを重視
- 言葉の意味を深掘りし、日常生活にどう活かすかを考える
- 子どもの年齢に応じて、理解できる範囲を少しずつ広げる
「トーラー」をピックアップ
トーラーには「教育」を大事に考える私たちにとっても学ぶ箇所は多くあります。これを生まれた時からまさに「叩き込まれる」わけです。
学びを重ねる大切さ
申命記 6章4–9節(シェマの祈り)
「あなたはこれを子どもたちに教え、家にいるときも道を歩くときも、寝るときも起きるときも語りなさい。」
ユダヤ教育の中心となる言葉です。「学びは日常の中にある」という考え方を示しています。親が子に繰り返し教え、会話を通じて学ばせることの重要性が強調されています。
忍耐と粘り強さ
出エジプト記 20章(十戒)
中でも「安息日を覚えて、これを聖とせよ」という戒めは、忍耐と自己制御の訓練につながります。
遊びたい・働きたい衝動を抑えて「一日を休む」ことは、子どもにとっても自己コントロールや習慣化の練習となります。
知恵と問いかけ
創世記 18章
アブラハムが神に「ソドムを滅ぼすのか」と問いかけ、議論を重ねる場面。
ただ従うのではなく「なぜ?」と問いかける姿勢が尊重されています。教育においても「疑問を持つことは大事」というメッセージを子どもに伝えられます。
議論や対話はユダヤ人の教育においてとても重要なキーワードです。
努力と忍耐の物語
創世記 29章20節
ヤコブがラケルを得るために7年間労働し、その年月を「わずか数日のように思えた」と描かれる箇所。
目標のために努力を続ける忍耐力、愛情や目的意識が学びを支えることを象徴しています。
学ぶ者の姿勢
申命記 31章12–13節
「男も女も子どもも集め、律法の言葉を聞いて学ばせなさい。」
子どもを含めて共同体全員が学びの主体であると明言されています。子どもも「教えられる対象」ではなく「共に学ぶ存在」であることが強調されます。
ユダヤ教は教育において男女の差を設けていません。男女ともに教育を行うことの重要性を説いています。また後半に「共に学ぶ存在」という部分も、対話の重要性を伝えています。
私たちの教育に活かせるポイント
- 学びは日常生活に組み込むもの(習慣化)
- 疑問を持ち、問いかけることを尊ぶ(批判的精神)
- 忍耐や努力の価値を物語で示す(自己コントロール)
- 共同体で学ぶ姿勢(親・子・社会全体で教育)

タルムード 終わりなき対話の書
タルムードとは?
タルムードは、トーラーの解釈・議論をまとめた膨大な文献群です。紀元後3〜6世紀に編集され、法律・倫理・生活習慣・哲学など幅広いテーマを含みます。
トーラーが基礎書とすると、タルムードはそのトーラーをどう理解し、どう生きるかを議論・解釈したものです。いわば(言葉は悪いかもしれませんが)教科書と、その教科書の説明書・実践書みたいな関係です。
タルムードの教育的特徴
- 「正解」ではなく「問い」を重視
- 複数の解釈を並列して記録する
- 異なる立場を尊重しつつ、徹底的に議論する
この姿勢は、批判的思考力を育む基盤となっています。
内容の幅広さ
タルムードには、実に多様なテーマが含まれています。
- 宗教儀式や祭りのルール
- 借金や契約に関する法律
- 家族や結婚に関する決まり
- 医学的な知識(当時の治療法など)
- ユーモアや寓話、人生の知恵
単なる宗教書ではなく、「人間の営みに関する百科全書」と言われるゆえんです。

タルムードの特徴
〇 議論が並列に残される
タルムードでは、ある法律や規範の解釈について複数のラビ(教師)の意見が記録されています。
- 正解を一つに絞らない
- 「Aはこう言ったが、Bは反対した」という形で残す
これが「多角的に考える力」「批判的精神」を育てます。
〇 学びのスタイル「ハブルータ」
タルムード学習は ペアや小グループでの対話形式で行われます。
- 一方が問いを出す
- もう一方が答え、さらに深掘りする
- 議論を重ねることで理解を深める
現代教育でいう「アクティブ・ラーニング」や「対話型学習」の原型とも言えます。
〇 ユダヤ教における対話の重要性
ユダヤ人の家庭では、子どもが「なぜ?」「どうして?」と質問することは歓迎されます。大人はすぐに答えを押しつけるのではなく、一緒に考え、さらに問いを投げ返しをします。
「従順」より「議論」を重視
ユダヤ教育では、従順さよりも「議論を通じて真理に近づく」ことが尊ばれます。これは時に衝突や葛藤を生みますが、同時に柔軟で多角的な思考力を育みます。
〇 失敗を恐れない姿勢
批判や異論にさらされることを日常的に経験することで、ユダヤ人の子どもたちは「失敗しても学びに変えられる」という強さを身につけます。
批判精神を持ち、疑問を持ち、対話をすることが「自ら考える力」を養成します。
(私たちも会話、対話を学習する上で重視しています。こちらの記事で私たちが大事にしている「対話」についてお伝えしています。https://lycopo.com/「できそうで、できない」が重要-%e3%80%80個別教育がも/)
私たちの事業と「対話」の重視
株式会社リコポ(LycoPo)でも、ユダヤ教の教育に通じる「対話」を大切にしています。学習、遊び、そして絵本の読み聞かせにも「よい対話」を取り入れています。
(わたしたちの行うサービス内容 https://lycopo.com/service/)
- 子どもの「なぜ?」を引き出すシッター・教育スタイル
- 単なる見守りではなく、対話を通じた思考のサポート(絵本の読み聞かせや学習に積極的に取り入れています)。
- アドバイザーも定期的に家庭で取り入れるべき「質の良い会話」をアドバイスします
私たちは、アドバイザー、先生が保護者の方をしっかり補助し「子どもの学びの共同体」をつくり、未来を支える教育の場を育んでいきます。
まとめ
- トーラーは「生きるための学び」の基本書
- タルムードは「問い続ける」文化の象徴
- 対話と批判的精神がユダヤ教育の柱
- 教育への投資は最大の資産
- LycoPoも「対話」を軸にした幼児教育を提供
2回にわたってユダヤ人の教育についてお伝えしましたが、この教育法は私たち自身が学ぶべき点が多々あります。ただ、私は決していわゆる「偏詰め込み教育」に関して否定的ではありません。あの学習法にも大きなメリットがあると思っています。
それに関してはまたお伝えするとして、ただ言えるのは、土地や財を奪われても、決して知恵を捨てず、幼少の頃から教育を徹底し、それを守り続けたユダヤ人が多くの実績を築き続けているのも確かなことです。
私たちは今の日本の教育をすぐに捨てる必要はないと思います。日本の教育も識字率の高さ、義務教育の定着率、世界でトップクラスの学力、それに伴う治安のよさや、文化レベルの高さを築いているのも確かだからです。世界と比べて、劣っているとはとても思えません。
しかし、ユダヤ教から学べる点は学び、取り入れるべき点は取り入れてよいと思っています。
※OECDが行う国際学力調査「PISA」によれば、2022年の日本の15歳の生徒の成績は「読解力:516点(OECD平均476点) 全参加国・地域中3位」「数学的リテラシー:536点(平均472点) 5位」「科学的リテラシー:547点(平均485点) 2位」とOECD平均を大きく上回っており、特に科学リテラシーでは際立つ成績を出しています。ちなみにPISAは決して詰込み型の問題ではなく、かなり考えさせられる問題です。
数学的リテラシー
http://文部科学省 PISA 調査(数学的リテラシー)公開問題例(PDF)
読解力https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/11/18/1379573_003.pdf?
科学的リテラシーhttps://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/11/18/1379573_005.pdf?