巨大企業エンロンの崩壊と、幼児教育と、子どものほめ方

皆さんはアメリカのエネルギー取引企業「エンロン」を知っているでしょうか。エンロンはアメリカのフォーチュン誌でアメリカでもっとも革新的な企業に6年連続で選ばれ、1990年代後半には「革命児」として、全盛期には売上高で全米7位まで上り詰めました。
しかし、その栄光は見せかけだけでした。巨額の粉飾決算で実際には赤字なのに、黒字を出しているように装い、株価を維持し続けていました。株価は90ドル台から1ドル未満に暴落、同年にアメリカ史上最大規模の経営破綻を宣言しました。
なぜ、今日はこのエンロンを取り上げたのか。それはエンロンの評価制度の問題が幼児教育おいて、特に「ほめ方」に強く結びついていると考えたからです。
今日はこのエンロンの崩壊をお伝えしながら、子どものほめ方、接し方を考えます。
エンロンとはどんな企業だったのか
まずはエンロンとはどんな企業だったか確認します。
設立と事業内容
エンロンは1985年、アメリカ・テキサス州ヒューストンで設立されたエネルギー取引企業でした。天然ガスや電力の販売に加え、取引市場を創設し「エネルギーを金融商品として売買する」という革新的な仕組みを導入しました。当時のCEOジェフリー・スキリングや会長ケネス・レイのもとで急成長し、1990年代後半にはフォーチュン誌で「全米で最も革新的な企業」に6年連続で選ばれるほど市場から高い評価を受けていました。
株価と規模の拡大
エンロンは金融工学を駆使したデリバティブ取引を展開し、電力や天然ガスを株や債券のように取引できるプラットフォームを築きました。株価は2000年に1株90ドルを超え、時価総額は約700億ドルに達しました。売上高でも全米7位となり、名実ともにアメリカを代表する大企業の一つとされました。
不正会計と崩壊
負債を隠す仕組み
エンロンは実際の業績よりも大きな利益を見せかけるため、数百に及ぶ特別目的会社を設立し、巨額の負債をそこに移して帳簿から切り離しました。そして将来得られると見込まれる利益をすぐに計上できる「時価会計」を乱用し、実際には赤字であるにもかかわらず黒字を示す操作を繰り返し、投資家や株主に「成長を続ける企業」という幻想を与え続けました。
不正の発覚と破綻
2001年、ウォールストリート・ジャーナルなどの報道をきっかけに不正会計の疑いが表面化し、エンロンの信頼は失墜しました。株価は数か月のうちに90ドル台から1ドル未満へと暴落し、同年12月にはアメリカ史上最大級の企業破綻を迎えます。従業員は退職金や年金を失い、投資家も莫大な損害を被りました。
(さらに詳しくはこちらのリンク先を参考にしてください。https://www.britannica.com/event/Enron-scandal?)
エンロンの評価制度ージェフリー・スキリングが望んだ人材
「誰よりも優秀だと証明してみせろ!」。この言葉が飛び交うのがエンロンの社風だったようです。この大企業に選ばれた従業員たちはうぬぼれが強かった一方、つねに「自分の能力を示さなければならない」と強い不安にかられていました。
さらにCEOのスキリングはもっとも重要な経営戦略として新しい評価制度を立ち上げます。その制度は毎年従業員を格付けし、下位15%の従業員をクビにするというものでした。どれだけ本人が頑張って良い結果をだしても、従業員全体で見た相対評価が低ければクビにされます。その結果従業員たちは短期間で結果を出すことを重視しなければならず、長期的な学習や成長を目指すことは妨げられてしまいます。
そしてその評価制度の中で、従業員たちは少しでも優位を取ろうとして、相手から成果を奪い、成果をごまかすような狡猾なものを生み出し、正直者やまじめな努力家を排除する環境を作り出します。
この「能力」と「成果」にもにスポットを当てた評価制度は、結果として企業の成長を妨げ、また自分たちを強く良く見せるために、自分や他人をごまかしてしまう企業になってしまいます。
参考資料『GRIT やり抜く力』アンジェラ・ダックワース
能力や才能をほめるのではなく、努力や成長をほめる
ここまでエンロンの説明をしましたが、なんとなく気づく方もいるかもしれません。私はブログでも何度か「才能や成果」をほめるのではなく、「努力や成長」をほめることが子どもの成長につながることをとお伝えしています。リコポでもほめ方にはこだわるように先生方にお伝えしています。
才能や頭の良さをほめると、子どもは「そのイメージを壊したくない」と思うようになります。失敗を恐れ、挑戦を避けるようになり、学習意欲の低下につながることも。スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエック博士の研究(いわゆる「マインドセット理論」)でも、能力をほめられた子どもより、努力をほめられた子どもの方が挑戦を続ける傾向があることが示されています。
(このほめ方について書いているブログの記事です。https://lycopo.com/「子どもの努力をほめる」その一言が未来を変え/)
これは以前に書いたブログの記事ですが、才能や頭の良さ、成果のみにスポットを当てた子どもは失敗を恐れ、挑戦を避けるようになる、学習意欲も低下する・・・・まさに成果や才能のみで評価され、短期的な成果を出せない人間はクビにされるーエンロンの従業員と重なります。
子どもに重要なのは挑戦していく心であり、頑張ればできるかもしれないと自分を信じられる力です。
それはうぬぼれであってはなりません。優秀な才能を持っている子もそれは素晴らしいことですが、かならず壁にぶち当たりますし、失敗もします。何も新しいことを学ばずに、すべて順調にいくということはこの劇的に変化する世界では不可能です。
そんな時に自分の前に立つ壁を恐れないこと、壁を超えるために努力が必要で、それはきっと乗り越えていけるといううぬぼれではない「よい」自己肯定感が必要です。
エンロンのように成果のみに注目するのではなく(〇〇ができてすごい。算数のテスト1位になってすごい、という才能や成果のみに注目するのではなく)、子どもの「努力する姿勢」やどんなに努力したかという「努力の過程」にもしっかり注目してあげなければなりません。
(こちらのブログにも子どものほめ方について触れています。参考にしてください。https://lycopo.com/子どもを伸ばす正しい「ほめ方」―才能ではなく/)
Q&A(まとめ)
Q1. 子どもがテストで1位をとったとき、どうほめるのが良いですか?
A. 結果を称賛するのも大切ですが、「勉強を続けた努力」「苦手を克服した姿勢」を具体的にほめることが効果的です。努力の過程に光を当てると挑戦意欲が育ちます。
Q2. 子どもが失敗したとき、ほめるポイントはありますか?
A. 失敗そのものではなく、「挑戦した勇気」や「工夫した過程」を認めましょう。たとえ結果が伴わなくても努力が価値あるものだと伝えることで、学びと前進につながります。
Q3. 才能や頭の良さをほめるのはNGですか?
A. 才能をほめること自体は悪くありません。ただしそれだけに偏ると「そのイメージを壊したくない」と挑戦を避ける子に育ちがちです。「才能+努力」の両方をバランスよく認めることが大切です。