幼児期のけんかは必要?「ぶつかり合い」から育つ社会性と心の成長

お友だちとおもちゃを取り合って泣いたり、順番をめぐって押し合いになったり——
幼児期には、けんかの場面が日常的にあります。
親としては「仲良くしてほしい」「乱暴な子にならないでほしい」と思うのが自然です。
けれど実は、幼児期のけんかは子どもの心の発達に欠かせないプロセスです。
けんかを通して子どもは、「自分と他人は違う」「感情を伝える方法」「仲直りする力」など、
人生で大切な社会性を学んでいくのです。
本記事では、幼児期のけんかの原因・意義・親の対応方法を、幼児教育の観点からわかりやすく解説します。
幼児期のけんかとは:発達の“通過点”
幼児期(おおよそ3〜6歳)は、ピアジェの発達段階理論でいう「前操作期」にあたります。
この時期の子どもは、世界を自分の視点から見ており、「自己中心的思考」が強い時期です。
つまり、「自分が思った通りにしたい」「今すぐ欲しい」「自分が正しい」と考えるのは自然なことです。
他人の気持ちや意図を理解する力(共感性)はまだ発達途中なのです。
このため、おもちゃの取り合い・順番争い・役割分担などの小さな衝突が頻繁に起こります。
それは「わがまま」ではなく、社会性を学ぶ準備運動ともいえる行動です。
※ピアジェの発達心理学の記事です。
子どもは“小さな科学者” ピアジェの発達段階理論と幼児教育の関係
幼児期のけんかの主な原因
けんかの背景には、発達心理的に次のような要素があります。
① 自己中心性(エゴセントリズム)
幼児は「他人の立場で考える」ことがまだ難しい段階です。
「自分がしたいこと=正しいこと」と感じるため、他の子の行動が自分の望みに反すると、すぐに衝突が起きます。
例:「ぼくが先に使いたいの!」「○○ちゃんが邪魔した!」
② 共感性の未発達
相手の気持ちを理解する「共感性(エンパシー)」は、3〜6歳でようやく芽生えはじめます。
相手が悲しんでいることに気づけても、どう行動すればよいかまではわからないことが多く、
その戸惑いが結果としてけんかに発展することもあります。
③ 規範意識・ルール意識の学習途中
社会のルールや「順番」「公平さ」「共有」といった概念をまだ十分に理解していないため、
「なんで自分だけ待たなきゃいけないの?」という不満を抱きやすいのです。
つまり、けんかは「規範意識の未熟さ」から起きる自然な現象でもあります。
けんかの重要性:社会性の“学びの現場”
幼児期のけんかは、単なるトラブルではありません。
それは、感情・社会性・道徳性の発達を促す学習の場です。
① 感情を表現する力を育てる
怒り・悲しみ・悔しさ・譲りたくない気持ちなど、けんかの中で子どもは様々な感情を体験します。
それを言葉にし、相手に伝えようとする過程こそ、感情のコントロール訓練です。
② 他者理解と共感の芽生え
けんかの後に「相手もイヤだったんだ」「自分も同じことをされたら悲しい」と気づくことで、
共感性が育ちます。これは非認知能力の核でもあり、思いやり・協調性の基盤となります。
③ 問題解決力を学ぶ
どうしたら仲直りできるか、どうすれば次はけんかを防げるか。
子どもは体験の中で自然に「交渉力」「妥協」「修復行動」を学んでいきます。
けんかを通して幼児が得られるもの
- 自分の気持ちを言語化する力
→「イヤだ」「それはダメ」と言葉で伝えられるようになる。 - 相手の気持ちを想像する力
→「○○ちゃんも使いたかったんだ」と理解できるようになる。
※子どもの共感性に関しての記事です。
「共感性」を養う幼児教育 「思いやりのある子ども」は幸福度が高い - 感情の抑制・自己調整
→すぐに手を出すのではなく、深呼吸や言葉での対応を学ぶ。 - 仲直りの経験
→「ごめんね」「いいよ」のやり取りを通して、人間関係の修復スキルを獲得。 - 道徳的感情(公正感・善悪判断)
→「順番を守る」「ルールを共有する」意識が育つ。
※子どもの規範意識に関しての記事です。
子どもの「規範意識」をどう育てる?自由とルールのバランスが大事
こうした力は、将来的に「人との協働」や「チームでの学び」を支える土台になります。

親はどう考え、どうすべきか
① 「けんか=悪」ではないと受け止める
まず大切なのは、けんかを必要以上に否定しないこと。
子どもの社会的成長の一部として「学びの機会」と捉えましょう。
② 安全を守りつつ、少し見守る
大人がすぐに介入すると、子どもは「自分で解決する力」を失ってしまいます。
ケガや暴力がなければ、一定時間は見守る勇気を持つことも大切です。
③ 感情を言葉にしてあげる
「○○くんは貸したくなかったんだね」「△△ちゃんは待っていたのに使われて悲しかったね」
と、双方の気持ちを言語化して代弁することで、子どもは「気持ちは言葉で伝える」ことを学びます。
④ 勝ち負けで判断しない
「どっちが悪いの?」と決めるのではなく、
「どうしたら次はうまくできるかな?」と次につながる質問をしましょう。
親が気を付けるべき点
- 大人の感情的な叱責は逆効果
「なんでそんなことするの!」ではなく、「どうしてそうしたの?」と冷静にいきましょう。 - 子どものプライドを守る
人前で叱ると、羞恥や反発心を生み、学びが得にくくなります。 - 仲直りを強制しない
時間が必要な場合もあります。心の整理を待ってから「話してみようね」と促す。 - 比較しない
「○○くんはちゃんとしてるのに」は禁句。自己肯定感を下げます。 - けんかの背景に“疲れ”や“空腹”があることも
体調・睡眠不足・ストレスがけんかの引き金になることも多いです。
マイナビ保育「子ども同士のトラブルはどうやって対応する?知っていると便利な仲裁のポイント」
トラブル発生時の言葉がけ・仲裁のポイントが実務的に解説されています。
けんかは“心の筋トレ”と考えましょう
けんかを避けて通ることはできません。
むしろ幼児期に安全な環境で小さな衝突を経験することが、
将来の「コミュニケーション力」「共感力」「自制心」を育てます。
親や保育者の役割は、止めることではなく、学びに変えること。
泣いたり怒ったりしながらも、少しずつ“人と生きる力”を身につけていく——
それこそが、幼児期のけんかの本当の意味なのです。
LycoPo(リコポ)幼児教育では、お子さまの「けんか」や「ぶつかり」を、単なるトラブルではなく発達のチャンスとして見ています。
けんかなど一見とても不安なことでも、365日いつでも相談にのります。安全に見守りながら、気持ちの言葉化・相手理解・修復のプロセスを丁寧にサポートします。
幼児教育重視のベビーシッター 子育て・教育相談も重視します
Q&A(まとめ)
Q1. 子どもがけんかをすると、すぐ止めた方がいいですか?
A. すぐに止める必要はありません。ただし、身体的な危険(叩く・押す・噛むなど)がある場合は即介入をしてください。安全が保たれているなら、少し距離をおいて見守りましょう。その中で「どう伝えればいいか」「どうすれば解決できるか」を学んでいきます。親の役割は“裁判官”ではなく“ガイド役”です。
Q2. けんかをすると性格が荒くなるのでは?
A. むしろ逆です。けんかを通して感情の出し方とコントロールを学びます。怒る、泣く、譲る、謝るといった一連の経験が「自分の気持ちを言葉で表す力」や「他人への思いやり」を育てます。
けんかのない環境では、感情の扱い方を学ぶチャンスが減ってしまいます。
Q3. 親はどのようにフォローすればいいですか?
A. まずは感情を受け止め、「そうだったんだね」と共感すること。次に、「どうしたらよかったと思う?」と考える機会を与えるのがポイントです。「ごめんなさいを言いなさい」と強制するより、「次はどうしたい?」と促すことで、自己調整力が自然に育ちます。