子どもは、信頼できる大人の表情や行動を参考にする
小さな子どもが、転びそうなとき、知らない人に話しかけられたとき、初めての食べ物を前にしたとき──まず目を向けるのは、近くにいる大人の表情です。
その大人が穏やかな顔をしていれば、子どもも安心して一歩を踏み出します。
反対に、不安そうな顔をしていれば、子どもはその場に固まり、動けなくなることもあります。
この「大人の反応を手掛かりにして自分の行動を決める」現象は、心理学で**社会的参照**と呼ばれています。
本記事では、この社会的参照の仕組みと、親や保育者が日常で気をつけたいポイントをわかりやすく解説します。
子どもは大人の表情を手がかりにする
不安な場面では「顔を見る」
乳児期後半から1歳を過ぎたころ、子どもは「状況の意味を理解する力」を少しずつ獲得します。
とはいえ、まだ自分ひとりでは「安全か危険か」を判断できません。
そのため、信頼する大人の表情や声色を「手がかり」にします。
たとえば──
- 初めて見る犬に近づくとき、お母さんが笑顔なら「大丈夫」と感じて手を伸ばす。
- お父さんが「こわいね」と言えば、泣きながら後ずさりする。
- 段差のある場所で立ち止まり、大人の顔を確認してから降りる。
このように、子どもは大人の反応を“安全確認のサイン”として受け取るのです。
これは本能的な行動であり、社会的な学びの第一歩でもあります。
「社会的参照」とは何か
心理学者たちは、乳幼児がどのようにして「他者の感情から状況を読み取るのか」を長年研究してきました。
この過程で注目されたのが**社会的参照(social referencing)**という概念です。
社会的参照とは──
「不確かな状況において、信頼できる他者の表情・声・行動などの社会的手がかりを利用して、自分の感情や行動を調整すること」
です。
簡単にいえば、“今どうすればいい?”を他人の反応から学ぶ力です。
この力は生後8〜10か月ごろから見られ、1歳を過ぎるころにははっきりと観察されます。
つまり、言葉をまだ話せない時期でも、子どもは表情の意味を敏感に読み取っているのです。
「ソースの実験」──視覚的断崖での社会的参照
社会的参照の代表的な研究として有名なのが、アメリカの心理学者ジョセフ・カンデラとメアリー・クラフによる「視覚的断崖」の実験です。
中でも「ソースの実験」は、親の表情が子どもの行動にどう影響するかを鮮明に示しました。
実験方法
- 赤ちゃんをガラスの上に立たせます。
- ガラスの下には床が続いているように見える部分(安全)と、断崖のように見える部分(不安)を作ります。
- 赤ちゃんの前方には、母親が座っています。
- 母親には「笑顔」「怖い顔」「無表情」など、表情を変えて赤ちゃんを呼ぶように指示します。
結果
- 母親が笑顔のとき → 多くの赤ちゃんは安心してガラスの上を進む。
- 母親が恐怖の表情をすると → ほとんどの赤ちゃんが動かず、泣いたり固まったりした。
- 無表情の場合 → 赤ちゃんは混乱し、行動をためらう傾向が見られた。
つまり、子どもは母親の表情を“安全の信号”として使っているのです。

実験からわかること:安心は「大人の顔」から伝わる
この実験が示すのは、「言葉より先に、表情で安全を学ぶ」ということです。
子どもは周囲の環境を自分で判断できないため、信頼できる人の顔を通して世界を理解しようとします。
さらに重要なのは、この仕組みが「社会的学習の土台」になるという点です。
つまり、親の笑顔を通して「未知へのチャレンジ」や「安心感」を学び、将来の「人への信頼」「挑戦する意欲」へとつながります。
「笑顔を手がかりに世界を知る(社会的参照)」 — 心理学の視点からイラスト(絵本形式)で整理されたとても良いまとめです。
日常生活における社会的参照の例
社会的参照は、日々のささいな場面にも溢れています。
- 知らない場所に行くときに、大人が落ち着いていれば子どもも安心する
- 病院で注射を受けるとき、親が怖がると子どもも泣き出す
- 食べたことのない料理を前に、大人が「おいしいね」と言えば子どもも口にする
- 転んだときに、大人が驚かず「大丈夫だよ」と言えば泣かずに立ち上がる
つまり、大人の感情表現が、子どもの行動と情緒を方向づけるのです。
親が気をつけたい3つのポイント
① 不安を伝染させない
親が焦ったり、不安を言葉や顔に出すと、子どもはそれを「危険信号」と受け取ります。
たとえ心配でも、まずは深呼吸して落ち着く姿を見せることが大切です。
② 「笑顔」は最強の教育ツール
笑顔は、子どもにとって「安心と信頼の合図」です。
新しい体験のときほど、笑顔で「見守っているよ」と伝えましょう。
これがチャレンジ精神や自己効力感を育みます。
③ 言葉と表情の一致を意識する
「大丈夫だよ」と言いながら顔がこわばっていると、子どもは混乱します。
言葉と表情を一致させることが、最も信頼されるコミュニケーションの基本です。
子どもは、言葉よりも先に、大人の顔を読み取って世界を理解します。
社会的参照は、危険を避けるだけでなく、未知の世界に一歩踏み出す勇気を育てる心理的土台です。
だからこそ、親や教育者は「安心の表情」を意識して伝えていくことが大切です。
幼児教育における社会的参照の意義
幼児教育の現場では、この社会的参照を常に意識します。
子どもが不安を感じたとき、シッターや先生の穏やかな表情・落ち着いた声・ゆったりした動作が、安心のサインとなります。
そうして初めて、子どもは探究心を発揮し、学びへと踏み出すことができます。
つまり、教育の出発点は「信頼関係の安全基地」。
それを築く最初の手段が、まさに「表情」なのです。
※基本的なことですが、こういった姿勢に対してしっかり気を付けてくれるように先生方に教育内容や情報を共有しています。
【個別教育の力】「最近接領域」に働きかけるベビーシッターの強み
パパママからよくある質問3つ
Q1. 子どもが転んだとき、すぐに抱き上げないほうがいい?
A. まずは落ち着いた表情で「痛かったね」「大丈夫?」と声をかけましょう。大人が慌てると、痛み以上に不安が増して泣きやすくなります。
Q2. 人見知りが強い子は社会的参照が原因ですか?
A. いいえ。社会的参照は健全な発達です。慎重な性格の子はより敏感に大人の表情を読む傾向があるだけです。
Q3. 保育園やシッターに預けるとき泣くのは、どう対処すれば?
A. 別れ際に笑顔で「いってらっしゃい」を伝えましょう。大人の安心した表情が「ここは安全だ」というメッセージになります。
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