情操教育とは?子どもの「感じる心」を豊かに育てる
子どもの教育というと、ことばや数字、知識を身につけることに目が向きがちです。
しかし、幼児期には、
「きれいだな」
「楽しいな」
「かわいそうだな」
「不思議だな」
「もう一度やってみたいな」
と、心が動く経験もとても大切です。
自然に触れること、音楽を楽しむこと、絵を描くこと、人や動物を思いやること。
こうした経験を通して、子どもの中に少しずつ育っていく豊かな心に関係するのが、今回取り上げる「情操教育」です。
※参考(文部科学省)幼稚園教育要領
そもそも「情操」とは?
「情操」という言葉は、日常生活ではあまり使わないため、少し難しく感じるかもしれません。
簡単にいえば、美しいものや優れたものに心を動かされたり、人や生命を大切に思ったりする、豊かな感情や心の働きのことです。
例えば、
夕焼けを見て「きれい」と感じる。
音楽を聴いて楽しくなったり、少し切ない気持ちになったりする。
友達が泣いているのを見て「大丈夫かな」と思う。
花が咲いたことに気づいて喜ぶ。
物語の登場人物の気持ちを想像する。
こうした心の動きは、テストで点数をつけられるものではありません。
しかし、人が豊かに生きたり、他者と関わったり、自分なりの価値観を育てたりするうえで、とても大切なものです。
情操教育とは
情操教育とは、さまざまな体験を通して、子どもの感性や思いやり、想像力など、豊かな心を育てていく教育です。
「心の教育」と考えると、分かりやすいかもしれません。
ただし、
「優しい子になりなさい」
「自然を大切にしなさい」
と、正しい価値観を大人が一方的に教え込むことが情操教育ではありません。
大切なのは、子ども自身が実際に見て、聞いて、触れて、心を動かすことです。
文部科学省の幼稚園教育要領でも、幼児期には身近な環境と十分に関わり、美しいものや心を動かす出来事に出会い、そこから得た感動を人と共有することを通して、豊かな感性を養うことが重視されています。
五感を使って世界を感じる
幼い子どもは、ことばによる説明だけで世界を理解しているわけではありません。
見る。
聞く。
触る。
においをかぐ。
味わう。
こうした五感を使いながら、身の回りの世界を知っていきます。
例えば公園に出かけるだけでも、
葉っぱの緑を見る。
風の音を聞く。
土や木の感触に触れる。
花の香りをかぐ。
季節による空気の違いを感じる。
といった、多くの刺激に出会います。
文部科学省も、幼児が生活の中で音、色、形、手触り、動きなどに気づいたり、自然の風や雨の音、草花の形や色などに触れたりすることを、感性を育てる経験として位置づけています。
情操教育では、高価な教材を使うことよりも、子どもが実際の世界を十分に感じられる経験が重要なのです。
自然に触れる
情操教育の代表的な経験の一つが、自然との触れ合いです。
例えば、
公園で落ち葉を集める。
雨上がりの水たまりを見る。
虫を観察する。
花を育てる。
空や雲を眺める。
季節ごとの気温や風の変化を感じる。
これだけでも、子どもの心はさまざまに動きます。
「この虫、どこに行くのかな?」
「葉っぱの色が変わったね」
「昨日はつぼみだったのに、花が咲いてる!」
その驚きや喜びこそが大切です。
自然は、大人が答えを用意しなくても、子どもの「なぜ?」「すごい!」をたくさん引き出してくれます。
音楽を楽しむ
音楽も、情操を育てる大切な経験です。
歌を歌う。
音楽に合わせて踊る。
楽器を鳴らす。
静かな曲をじっくり聴く。
親子で同じ歌を楽しむ。
音楽には、ことばでは説明しにくい感情を感じたり、表現したりする力があります。
現在の教育でも、音楽を通して感性を育て、豊かな情操を養うことが重視されています。
幼児期には、「上手に歌う」「楽譜を読める」ことを急ぐよりも、
音を聞いて楽しいと感じること、自由に体を動かすこと、親子で一緒に楽しむこと
そのものに大きな意味があります。
絵本や物語も情操教育になる
絵本の読み聞かせも、身近な情操教育です。
物語の中では、子どもは自分が実際には体験していない世界に出会えます。
主人公が悲しんでいるのを見て、
「かわいそうだね」
と思ったり、
「自分だったらどうするかな」
と考えたりします。
絵本は、ことばや語彙を増やすだけではありません。
人の気持ちを想像したり、未知の世界に触れたり、美しい絵や表現に心を動かされたりする経験にもなります。
「感動できる経験」を生活の中につくる
情操教育というと、
「美術館へ連れて行かなければ」
「クラシック音楽を聴かせなければ」
と、特別なことをしなければならないように感じるかもしれません。
もちろん、それらも素晴らしい経験です。
しかし、情操教育はもっと身近なところにあります。
例えば、夕方に子どもと歩いているとき。
「今日の空、すごく赤いね」
と一緒に立ち止まってみる。
子どもが小さな花を見つけたとき。
「本当だ。こんなところに咲いているね」
と一緒に見る。
雨の音が聞こえたとき。
「今日はどんな音に聞こえる?」
と耳を傾けてみる。
料理をするときに、
「いいにおいがしてきたね」
と話す。
これだけでも十分です。
大切なのは、大人があらかじめ「これを感じなさい」と決めるのではなく、子どもの心が自然に動くきっかけを生活の中に用意しておくことです。
大人はすぐに「正解」を教えない
情操教育で大人が意識したいことの一つが、子どもの感じ方を否定しないことです。
例えば、絵を見て子どもが、
「この絵、怖い」
と言ったとします。
大人が、
「怖くないよ。きれいな絵でしょ」
とすぐに訂正してしまうと、子ども自身が感じたことを表現する機会が失われてしまいます。
そんなときは、
「怖く感じたんだね」
「どのところが怖かった?」
と聞いてみる。
同じものを見ても、感じ方は人によって違います。
その違いを認めてもらう経験は、子どもが自分の感性を大切にすることにもつながります。
幼稚園教育要領でも、幼児の素朴な自己表現を大人が受け止め、表現しようとする意欲を大切にすることが示されています。
大人が一緒に感動することも大切
子どもの情操を育てようとすると、
「子どもに何を体験させればいいのか」
ばかりを考えてしまいます。
しかし、大人自身が心を動かす姿を見せることも大切です。
花を見て、
「きれいだね」
音楽を聴いて、
「この曲、楽しいね」
子どもが作ったものを見て、
「こんなことを考えたんだ。面白いね」
と伝える。
子どもは、身近な大人が世界をどのように見ているのかをよく見ています。
大人が自然や芸術、人との関わりを楽しんでいる姿そのものが、子どもにとって豊かな環境になります。
情操教育は特別な「授業」ではない
情操教育で大切なのは、たくさんの知識を与えることでも、高価な習い事をさせることでもありません。
自然に触れる。
音楽を聴く。
絵を描く。
絵本を読む。
動物をかわいがる。
友達と笑ったり、ときには悲しい気持ちを経験したりする。
家族と一緒に季節の変化を楽しむ。
こうした毎日の生活の中に、情操を育てる機会はたくさんあります。
そして大人にできることは、子どもの心を直接「豊かにしてあげる」ことではありません。
子ども自身が見て、聞いて、触れて、驚き、喜び、考え、感動できる環境を用意すること。
そして、そのときに生まれた、
「きれい」
「楽しい」
「不思議」
「かわいそう」
「もっと知りたい」
という気持ちを、大人が一緒に受け止めることです。
情操教育とは、子どもの心に何かを詰め込む教育ではなく、子どもの心が豊かに動く経験を大切にする教育なのだと思います。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)