緘黙とは?子どもが話せないときに知っておきたいこと
家庭では元気に話しているのに、幼稚園や保育園ではほとんど声を出さない。
先生から話しかけられると、表情や体が固まってしまう。
このような様子が続くと、保護者の方は、
「恥ずかしがり屋なだけなのかな」
「そのうち話せるようになるのだろうか」
と心配になるかもしれません。
子どもが話さない背景にはさまざまな理由がありますが、その一つに「緘黙」があります。
緘黙とは
緘黙(かんもく)とは、話すための力がありながら、何らかの理由によってことばを発することが難しくなる状態を表す言葉です。
なかでも、家庭などでは普通に話せる一方、園や学校など特定の場所では継続して話せなくなる状態を、「選択的緘黙」といいます。
「選択的」という名前がついていますが、子どもが自分の意思で話す場所を選んでいるわけではありません。
強い不安や緊張によって、話したくても声を出せない状態です。単なるわがままや反抗ではなく、「話さない」のではなく「話せない」と理解することが大切です。
※参考(アメリカ言語聴覚協会)選択的緘黙症
選択的緘黙はどの年齢で現れやすい?
選択的緘黙の特徴は、一般に2~4歳頃から現れることがあります。
ただし、家庭では普通に話しているため、家族がすぐには気づかないこともあります。
幼稚園や保育園への入園、学校への入学など、家庭以外で話すことを求められる機会が増えたときに、初めて目立つ場合があります。
新しい環境で一時的に話せなくなる子どもは珍しくありません。そのため、入園直後に話さないだけで、すぐに選択的緘黙と判断することはできません。
大切なのは、一時的な緊張なのか、特定の場所で話せない状態が続き、本人の生活や活動に影響しているのかを見ることです。
どのような様子が見られる?
選択的緘黙の子どもの様子は、一人ひとり異なります。
例えば、次のような姿が見られることがあります。
家庭ではよく話すのに、園や学校では話さない。
先生に名前を呼ばれても返事ができない。
挨拶や「ありがとう」など、短いことばも言えない。
話しかけられると、表情や体が固まる。
視線を合わせにくくなったり、その場から離れようとしたりする。
ことばの代わりに、うなずき、指差し、身振り、筆談などを使う。
親しい友達や特定の先生にだけ、小さな声で話せる。
発表や音読、質問への回答など、話す必要がある活動を避けようとする。
話すことを求められたときに、強い緊張や不安が見られることもあります。
一方で、話さないこと以外は活発に活動できる子どももいれば、集団の中で体まで動かなくなるように見える子どももいます。
人見知りとはどう違う?
人見知りや恥ずかしがり屋の子どもも、初めて会う人の前では話せないことがあります。
しかし、環境や相手に慣れるにつれて、少しずつ話せるようになることが一般的です。
選択的緘黙では、慣れているはずの園や学校でも話せない状態が続き、本人が困っていても声を出せないことがあります。
ただし、外から見ただけで両者を明確に判断することはできません。
ことばの発達、聞こえ、発音、対人関係、環境の変化、使用する言語など、さまざまな事情を確認する必要があります。評価では、家庭と園・学校の両方から情報を集めることが重要です。
保護者や先生だけで「選択的緘黙だ」と決めつけるのではなく、気になる状態が続く場合には専門家へ相談しましょう。
疑いがあるときはどうすればよい?
まずは、家庭と園・学校での様子を整理します。
家庭では誰と、どの程度話せるのか。
園ではまったく声が出ないのか、小さな声なら話せるのか。
身振りや表情では意思を伝えられるのか。
いつ頃から、どのような場面で話せなくなったのか。
話すことを求められると、どのような反応が見られるのか。
こうした具体的な情報を保護者と先生で共有すると、相談するときにも状況を伝えやすくなります。
心配な場合は、まずかかりつけの小児科や地域の発達相談窓口、園・学校の相談担当者、スクールカウンセラーなどに相談する方法があります。
必要に応じて、児童精神科や小児心療内科、心理職、言語聴覚士など、子どもの不安やコミュニケーションに詳しい専門家につないでもらいます。選択的緘黙への支援は、家庭、教育機関、心理や医療などが連携して進めることが重要です。
「話してみて」と強く求めない
保護者や先生が特に気をつけたいのは、無理に話させようとしないことです。
「挨拶くらいしなさい」
「小さな声でいいから言ってみて」
「家では話せるでしょう」
と促し続けると、子どもは「また話すことを求められる」と感じ、緊張がさらに強くなることがあります。
話せなかったことを叱る、理由を問い詰める、みんなの前で話させるといった対応も避けます。
反対に、突然話せたときに大げさに驚いたり、周囲が注目したりすることも、次の緊張につながる場合があります。
話せたことだけを評価するのではなく、その場にいられたこと、活動に参加できたこと、身振りで意思を伝えられたことなども静かに認めることが大切です。
保護者ができること
家庭では、安心して話せる環境をこれまでどおり守りましょう。
園で話せなかったことを毎日確認したり、「今日は話せた?」と繰り返し尋ねたりする必要はありません。
子どもが話したくなったときには話を聞き、話したくないときには無理に説明を求めないことが基本です。
また、園や学校では、最初から発表や返事を目標にするのではなく、
うなずく。
指を差す。
選択肢を指で選ぶ。
カードや文字を使う。
安心できる一人と同じ空間で過ごす。
といった、ことば以外の方法でも参加できる環境を相談してみましょう。
大きな目標を急ぐのではなく、安心できる人や場所を少しずつ広げていく考え方が大切です。
※私たちも言語聴覚士の先生が協力してくれています。言語聴覚士とは?ことばの専門家「ゆうき先生」について
子どもを「話せない子」と決めつけない
選択的緘黙があっても、子どもにはたくさんの思いや考えがあります。
話していないからといって、話を理解していないわけでも、参加する気持ちがないわけでもありません。
声に出せないだけで、周囲の会話をよく聞き、心の中では一生懸命に答えていることもあります。
保護者としてできる最も大切なことは、
「話せなくても、あなたの気持ちは大切にされている」
と子どもが感じられる環境をつくることです。
家庭だけで解決しようとしたり、保護者自身の関わり方を責めたりする必要はありません。
気になる状態が続いているなら、早めに園や学校と情報を共有し、必要に応じて専門家へ相談しましょう。
診断を急ぐためではなく、子どもが安心して生活し、自分なりの方法で人と関われる環境を整えるための相談です。
子どもを無理に変えようとするのではなく、まず周囲が「話せない状態」を理解することが、支援の第一歩になるのです。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)