「三間の喪失」とは?子どもの遊びに必要な時間・空間・仲間
子どもにとって、遊びは単なる暇つぶしではありません。
走る、跳ぶ、つくる、考える、友達と相談する、けんかをして仲直りする。こうした遊びの中で、子どもは体の使い方や人との関わり方を学んでいきます。
ところが現代では、子どもの自由な遊びを支える三つの「間」が失われているといわれています。
それが、
遊ぶ「時間」
遊ぶ「空間」
一緒に遊ぶ「仲間」
です。
この三つが減少する状況を、一般に「三間の喪失」と呼びます。文部科学省も、子どものスポーツや外遊びに欠かせない時間・空間・仲間が減少していることを、子どもの運動不足や体力低下に関係する環境上の問題として挙げています。
遊ぶ「時間」の喪失
現代の子どもは、園や学校が終わったあとも、習い事、学習塾、宿題などで予定が埋まっていることがあります。
大人から見ると、予定があることは充実しているようにも見えます。しかし、子ども同士で集まり、
「今日は何をして遊ぼうか」
と、その場で遊びを考えられる自由な時間は少なくなります。
また、テレビ、ゲーム、動画など、室内で楽しめるものが増えたことも、外遊びの時間に影響しています。文部科学省は、外で体を動かす時間が減り、学校外の学習や室内遊びに置き換わってきたことを指摘しています。
大人が用意した活動には学べることがたくさんあります。
一方で、何をするか、いつ終わるかを子ども自身が決められる時間にも、別の大切な価値があります。
遊ぶ「空間」の喪失
かつては空き地、路地、原っぱなど、子どもが身近な場所で集まって遊べる空間が多くありました。
しかし、都市化や住宅環境の変化、交通量の増加などにより、自由に遊べる場所は少なくなっています。
公園があっても、
「ボール遊び禁止」
「大きな声を出さない」
「走り回らない」
などの決まりがあり、子どもができる遊びが限られる場合もあります。
また、交通事故や犯罪への不安から、子どもだけで外へ出すことを心配する保護者も少なくありません。
文部科学省の「幼児期運動指針」でも、都市化や生活様式の変化に加え、交通事故や犯罪への懸念が、子どもが体を動かして遊ぶ機会の減少につながっていると説明されています。
子どもが安全に遊べることはもちろん重要です。
しかし、安全を重視するあまり、子どもが走ったり、試したり、少し冒険したりできる空間までなくなってしまわないよう、バランスを考える必要があります。
遊ぶ「仲間」の喪失
少子化が進み、近所に同じくらいの年齢の子どもが少ない地域もあります。
さらに、それぞれの子どもの習い事や家庭の予定が異なるため、近くに友達がいても、自然に集まって遊ぶことが難しくなっています。
地域で異年齢の子どもが一緒に遊ぶ機会も少なくなりました。
以前は、年上の子が遊び方を教え、年下の子がそれをまねるといった関係が、日常の中にありました。
現在は、年齢ごとに分けられ、大人が管理する活動が増えています。文部科学省の研究でも、地域で同年齢や異年齢の子どもが集まり、夢中になって遊ぶ集団が形成されにくくなっていることが指摘されています。
もちろん、一人でじっくり遊ぶ時間も大切です。
しかし、仲間との遊びでしか経験できないこともあります。
自分の考えを伝える。
相手の意見を聞く。
順番やルールを決める。
思いどおりにならないことを経験する。
けんかをしたあと、もう一度一緒に遊ぶ。
こうした経験は、大人から説明を聞くだけでは身につきにくいものです。
三間の喪失によって、遊びはどう変わったのか
三間の喪失によって、子どもの遊びは、自由に生み出すものから、大人が時間や内容を決めるものへ変化しやすくなっています。
習い事やスポーツ教室では、専門的な指導を受けることができます。それ自体には大きな価値があります。
しかし、自由遊びでは、
「何をして遊ぶのか」
「誰と遊ぶのか」
「ルールをどうするのか」
「うまくいかなかったらどう変えるのか」
を、子どもたち自身が考えます。
決められた正解がないからこそ、想像力や主体性、問題を解決する力が使われるのです。
幼児教育でも、遊びを通して育まれる力は、小学校以降の学習や生活の基盤になると位置づけられています。
懸念される子どもの成長への影響
遊びの時間や機会が減れば、体を十分に動かす経験も少なくなります。
幼児期に走る、跳ぶ、投げる、登る、バランスを取るなどの多様な動きを経験することは、体力や運動能力の基礎をつくるうえで大切です。文部科学省も、体を動かす遊びの減少が、幼児期の多様な動きの獲得や体力・運動能力に影響する可能性を指摘しています。
また、仲間と遊ぶ機会が減れば、ルールを守る、自分の気持ちを調整する、相手と相談するなどの経験も得にくくなります。
文部科学省は、運動遊びの中で子どもがコミュニケーションを取り、協調する社会性を養えるとしています。幼児を対象とした研究でも、仲間と協力する身体遊びへの参加が、その後の社会的な力と関係する可能性が示されています。
ただし、外遊びが少ないから、すぐに社会性や身体能力が低くなると決めつけることはできません。
子どもの発達には、家庭や園での経験、本人の性格、生活環境など、さまざまな要因が関係します。
大切なのは、三間の喪失を子どもや保護者の責任にするのではなく、遊びにくい社会や環境の問題として考えることです。
※参考(文部科学省)子どもの体力向上のための総合的な方策について(答申)
家庭でできること
三間を完全に昔の状態へ戻すことはできません。
しかし、現在の生活に合った形で、子どもの遊びを守ることはできます。
予定を入れない時間をつくる
習い事や学習だけで一週間を埋めず、子どもが自分で遊びを決められる時間を残します。
「何をするの?」と大人がすぐに予定を決めるのではなく、何もない時間を子どもに渡すことも大切です。
退屈な時間から、新しい遊びが生まれることもあります。
身近な場所を遊び場にする
広い公園だけが遊び場ではありません。
室内でクッションを並べる。
段ボールで家をつくる。
散歩をしながら虫や植物を探す。
安全に配慮しながら、家庭や身近な場所でも体を動かしたり、考えたりできる環境をつくれます。
仲間と出会える機会をつくる
園の友達と公園で遊ぶ日を設ける、地域の児童館や子育て支援施設を利用するなど、子ども同士が自然に関われる機会をつくります。
ただし、大人が遊び方を細かく指示しすぎないことも大切です。
危険がない範囲では、子ども同士で遊びを考え、話し合い、時には意見がぶつかる過程を見守りましょう。
大人は遊びを「無駄な時間」にしない
子どもが夢中になって遊んでいるとき、大人には、
「そろそろ勉強した方がいいのでは」
「もっと役に立つことをさせた方がいいのでは」
と見えることがあります。
しかし、子どもは遊びながら、自分の体を知り、人との距離を学び、考え、工夫し、感情を調整しています。
遊びは、学習の反対側にあるものではありません。
子どもにとって、遊びそのものが大切な学びです。
三間の喪失を考えることは、昔の子どもの生活をそのまま取り戻すことではありません。
今の社会や家庭の中で、子どもが自由に遊べる時間、安心して動ける空間、一緒に関われる仲間をどのように保障していくかを考えることです。
子どもの成長のために、大人がすべてを教え、すべての活動を用意する必要はありません。
子ども自身が遊びを生み出せる余白を残すこと。
それも、大人が子どもの成長のためにできる大切な支援なのです。
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