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赤ちゃんは動画より対面で外国語を学ぶ?社会的随伴性と言葉の発達

赤ちゃんは動画より対面で外国語を学ぶ?社会的随伴性と言葉の発達

動画や音声を流しておけば、赤ちゃんも外国語を学べるのでしょうか。

前回の記事では、子どもの声や視線、動きに大人が応える「社会的随伴性」について紹介しました。実は、外国語の音を学ぶ場面でも、相手と直接やり取りできる環境が重要であることを示した実験があります。

今回は、英語圏で育つ生後9カ月頃の赤ちゃんに中国語を聞かせた研究をもとに、人との関わりが言葉の学習に与える影響を見ていきます。

※前回の記事です。子どもには複数の感覚で伝えよう 声かけと社会的随伴性の大切さ

目次

  1. 赤ちゃんはさまざまな言語の音を聞き分けられる
  2. 生後9カ月の赤ちゃんを対象にした実験
  3. 対面で中国語を聞いたグループ
  4. ビデオで中国語を聞いたグループ
  5. 実験の結果
  6. なぜ対面での学習に効果があったのか
  7. この実験から考えたいこと
  8. まとめ

1.赤ちゃんはさまざまな言語の音を聞き分けられる

生まれて間もない赤ちゃんは、自分の周囲で使われている言語だけでなく、さまざまな言語の音の違いを聞き分けられると考えられています。

しかし、生後半年から1歳頃にかけて、日常的によく聞く母国語の音に、より強く反応するようになります。

これは能力が単純に失われるというより、自分が暮らす言語環境に合わせて、音の捉え方が調整されていく過程です。

そこで研究者たちは、英語を聞いて育っている赤ちゃんに、短期間だけ中国語を聞かせても、その音の違いを学べるのかを調べました。


2.生後9カ月の赤ちゃんを対象にした実験

パトリシア・K・クールらは、英語圏で生活する生後9カ月頃の赤ちゃんを対象に、中国語の音を聞かせる実験を行いました。

赤ちゃんたちは、4週間の間に12回、1回約25分ずつ中国語に触れました。合計すると、中国語を聞いた時間は5時間に満たない程度です。

実験では、中国語を母語とする話者が、赤ちゃんに絵本を読んだり、おもちゃを使って遊んだりしながら、中国語で話しかけました。

その後、英語にはない中国語の2種類の音を、赤ちゃんが聞き分けられるかを調べました。

実際の研究には、対面、中国語の映像と音声、音声のみ、英語を対面で聞く条件がありました。ここでは、対面とビデオの違いを中心に見ていきます。

※参考(PNAS)乳幼児期の外国語体験:短期的な接触と社会的交流が音声学習に及ぼす影響


3.対面で中国語を聞いたグループ

対面のグループでは、中国語を母語とする大人が赤ちゃんの目の前に座り、絵本を読んだり、おもちゃを見せたりしながら話しかけました。

大人は、赤ちゃんが見ているものや反応に合わせながら、自然にやり取りをします。

赤ちゃんが大人を見る。
大人も赤ちゃんを見る。
赤ちゃんがおもちゃに注意を向ける。
大人がそのおもちゃを動かしながら話しかける。

この場面には、声だけでなく、表情、視線、口の動き、身ぶり、物の動きなど、さまざまな情報があります。

また、赤ちゃんの反応によって、大人の話し方や行動が変わることもあります。


4.ビデオで中国語を聞いたグループ

別のグループには、対面で話したのと同じ中国語話者や教材を、ビデオを通して見せました。

画面には人の顔が映り、声も聞こえます。絵本やおもちゃも登場するため、表面的には対面での学習とよく似ています。

しかし、映像の中の人は、目の前にいる赤ちゃんの行動には反応しません。

赤ちゃんが笑っても、声を出しても、別の場所を見ても、ビデオの内容はそのまま進みます。

つまり、映像や音声はあっても、赤ちゃんと相手との間に、その場で応答し合うやり取りはありませんでした。


5.実験の結果

実験後、赤ちゃんが中国語特有の2つの音を聞き分けられるかが調べられました。

その結果、対面で中国語に触れた赤ちゃんは、中国語の音の違いを聞き分ける力が高まっていました。

短期間の経験であったにもかかわらず、その成績は、中国語を日常的に聞いて育った台湾の同年代の赤ちゃんと統計的に同程度でした。

一方、ビデオで中国語を見聞きした赤ちゃんには、同じような学習効果が確認されませんでした。

音声だけを聞いたグループでも、中国語の音を聞き分ける力の向上は見られませんでした。

大切なのは、対面のグループもビデオのグループも、中国語の音そのものには触れていたということです。

それでも結果に違いが出たことから、赤ちゃんの外国語学習には、音を聞かせるだけではない要素が関係していると考えられます。


6.なぜ対面での学習に効果があったのか

対面の場面では、赤ちゃんと大人の間に、双方向のやり取りがあります。

赤ちゃんが相手を見ると、大人も視線を返す。
赤ちゃんが声を出すと、大人が声や表情で応える。
赤ちゃんがおもちゃに注目すると、大人も同じものを見ながら話す。

これは、前回紹介した社会的随伴性のある環境です。

赤ちゃんにとって、相手の表情や視線、反応は、

「今の音は大切らしい」
「この人は、このおもちゃについて話している」
「自分に向けて話しかけている」

と気づく手がかりになる可能性があります。

また、人とのやり取りがあることで、赤ちゃんの注意や興味が保たれ、声をより集中して聞きやすくなったことも考えられます。

ただし、この実験だけで、社会的随伴性だけが学習効果の原因だったと断定することはできません。

対面場面には、相手との応答、共同注意、集中のしやすさ、立体的な視覚情報など、ビデオとは異なるさまざまな要素が含まれているからです。

それでも、人との直接的な関わりが赤ちゃんの言語学習を大きく支えることを示した、重要な結果といえます。


7.この実験から考えたいこと

この実験は、「外国語の動画にはまったく意味がない」と結論づけたものではありません。

対象は生後9カ月から10カ月頃の赤ちゃんであり、調べられたのは中国語の音を聞き分ける力です。年齢や学習内容が変われば、映像の効果も異なる可能性があります。

また、外国語を早くから聞かせなければならないという意味でもありません。

この研究から大切にしたいのは、乳児期の学びでは、教材の量だけでなく、誰かと一緒に経験することが大きな意味を持つという点です。

外国語に限らず、絵本を読むとき、歌を歌うとき、物の名前を伝えるときにも、

・子どもの表情を見る
・子どもが注目しているものを一緒に見る
・子どもの声や身ぶりに応える
・楽しい気持ちを共有する

といった関わりが大切です。

流暢な外国語を話せなくても、子どもと一緒に絵を見たり、歌に合わせて体を動かしたり、子どもの反応に笑顔で応えたりすることはできます。

「正しく教えなければ」と力を入れすぎるよりも、まずは一緒に楽しむことが、子どもの注意や学ぶ意欲につながります。


8.まとめ

英語圏で育つ生後9カ月頃の赤ちゃんに中国語を聞かせた実験では、対面で中国語話者と交流した赤ちゃんは、中国語特有の音を聞き分けられるようになりました。

一方、同じような内容をビデオや音声で経験した赤ちゃんには、同様の学習効果が確認されませんでした。

赤ちゃんは、音だけを受け取って言葉を学んでいるわけではありません。

人の表情を見る。
視線を合わせる。
同じものに注目する。
自分の反応に相手が応えてくれる。

こうした社会的随伴性のあるやり取りも、言葉を学ぶための大切な手がかりになります。

乳児期の学びでは、「何を見せるか」「何を聞かせるか」だけでなく、「誰と、どのように経験するか」も大切です。

子どもにとって、人との温かなやり取りそのものが、学びを支える環境になるのです。

子どもの社会的随伴性


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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)

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