学習意欲と姿勢は“平衡感覚”から育つ
前庭覚が子どもの発達に与える影響を徹底解説
前回の続きの記事で、発達のピラミッドの土台にあたる感覚統合についての話です。触覚・平衡感覚(前庭覚)・固有覚の3つの中で、今日は2つ目の「平衡感覚」です。
※前回の触覚の記事です。
感覚統合は“学びの土台”。「感覚」の育成が学習意欲を育てる
子どもが「まっすぐ座る」「姿勢を保つ」「目で追う」「集中する」といった行動は、努力や性格だけで生まれるわけではありません。その背景には、耳の奥にある「前庭(ぜんてい)」が司る平衡感覚(前庭覚)の働きがあります。
平衡感覚は、触覚・固有覚とともに発達ピラミッドの最下層に位置し、姿勢・眼球運動・自律神経の安定に直結する、非常に重要な感覚です。この記事では、平衡感覚の仕組みと3つの神経回路(動眼系・脊髄系・自律神経系)、発達につまずいた際に現れるサイン、そして家庭でできるアプローチまで、幼児教育専門の視点から丁寧に解説します。
**【目次】
- 平衡感覚とは何か
- 姿勢と目の動きを支える「動眼系」
- 姿勢の安定を支える「脊髄系」
- 心と身体のバランスを整える「自律神経系」
- 平衡感覚がつまずいた時のサイン
- 低反応と過剰反応への具体的アプローチ方法
- まとめ:平衡感覚は“学びの準備状態”をつくる土台**

※以前の感覚統合に関しての記事です。
五感で育てる知性 幼児の感覚統合はすべての学習の土台になる
平衡感覚とは何か
「姿勢のコントロール」と深く関わる重要な感覚
平衡感覚は、耳の奥にある前庭器官(半規管・耳石器)で感じ取る感覚で、身体がどの方向に動いているのか、どれくらい傾いているのか、どのくらいの速さで回転しているのかを脳に伝えます。
つまり、「まっすぐ立つ」「姿勢を保つ」「揺れを感じる」といった動きを調整するセンサーの役割です。
子どもが
・姿勢が崩れやすい
・椅子に座るとダラッとする
・走ると頭がぐらつきやすい
・じっとした姿勢が苦手
などの行動を見せる場合、努力や性格の問題ではなく、この平衡感覚の発達に偏りがあることがあります。
前庭入力と感覚調節におけるその役割を理解する(NAPA Center)
※前庭覚とは何か、バランスや動き、空間の認識に対する前庭覚の重要性、子どもがブランコなどで遊ぶことの意味などをわかりやすく解説しています。
眼球運動を支える「動眼系」
動くものを追う力、視線の安定に平衡感覚が関わる
● 動眼系とは
動眼系とは、目を上下左右に動かしたり、素早い動きに反応して視線を安定させたりする神経回路です。前庭器官からの情報は脳幹を通じてこの動眼系とつながり、頭が動いても視線がぶれないように調整します。
具体例:
・ブランコに乗っても景色が飛ばない
・走りながらでも前を見られる
・読み書きで文字を追える
・黒板→ノートの視線移動がスムーズ
これらはすべて動眼系が安定しているから可能になります。
● 動眼系がつまずくとどうなるか
動眼系が十分に発達していないと、次のようなサインが見られます。
・眼振(目の揺れ)が出にくく、視線が不安定
・中心視(ピンポイントを見る力)が弱い
・周辺視(視野の広さ)が使いにくい
・読み間違いが多い
・ものを見失いやすい
・ボール遊びが苦手
・動くものを追えない
子どもが本を読むときに行が飛ぶ、黒板の文字を写すのが遅い、運動でボールが取れないといった悩みは、動眼系のつまずきが背景にあることがあります。
姿勢調節を司る「脊髄系」
“だらしなく見える姿勢”の裏に、平衡感覚が関係している
● 脊髄系とは
脊髄系は、頭の位置や身体の傾きを調整し、重心のバランスを取るための回路です。前庭から得た情報をもとに、体幹の筋肉に「今は支えるべき」「力を抜くべき」という指令を出しています。
具体例:
・椅子にまっすぐ座る
・走るときに身体が左右にぶれない
・転びそうになっても体を立て直せる
・階段を上り下りするときに姿勢が保てる
脊髄系は、いわば“体幹バランサー”の役割を持っています。
● 脊髄系がつまずくとどうなるか
脊髄系の発達に偏りがあると、以下のような姿勢の崩れが現れます。
・座るとすぐにもたれる、横に崩れる
・立つ姿勢が安定しにくい
・歩き方がふらつく
・姿勢が「だらしなく」見える
・運動時に体幹がグラグラする
・転びやすい
こうした姿勢の不安定さは、叱ったり注意したりして改善するものではありません。根本には平衡感覚と脊髄系の調整力の未発達があるためです。
心身のバランスを整える「自律神経系」
平衡感覚は“心の安定”とも深く関わっている
● 自律神経系とは
自律神経系は、呼吸・心拍・体温・消化など、自分の意思では調整できない身体の働きを司る神経のことです。
前庭覚はこの自律神経系と密接につながっており、身体の姿勢や重力の感覚をとおして心の状態を安定させる役割も担っています。
具体例:
・揺れでリラックスする(抱っこ、ブランコ)
・興奮しすぎたときに落ち着く
・緊張が強いときに深呼吸がしやすい
平衡感覚は“脳の安定スイッチ”として働くのです。
● 自律神経系がつまずくとどうなるか
・重力が不安に感じられ、姿勢がそわそわする
・じっとしていられない
・不安が強く、泣きやすい
・動きが極端に少ない、または動きすぎる
・集中が続かない
「落ち着きがない」「姿勢が不安定」という行動は、平衡感覚と自律神経系のアンバランスが影響していることも多いです。
平衡感覚がつまずいたときのサイン
平衡感覚の偏りは、日常生活に次のような形で現れます。
・座っていると崩れる
・イスの上で動き回る
・高いところを極端に怖がる/好む
・転びやすい
・ボール遊びが苦手
・視線が安定しない
・学習中に頭が動いてしまう
・乗り物酔いが多い
これらは性格ではなく、感覚の問題である可能性があります。
平衡感覚へのアプローチ
「低反応」と「過剰反応」でアプローチは大きく違う
平衡感覚の問題は、
①低反応(刺激に気づきにくい)
②過剰反応(刺激を強く感じすぎる)
この2タイプで対応が変わります。
● 低反応の子へのアプローチ
低反応の子は、揺れ・回転・傾きの情報を脳が受け取りにくいため、感覚を“入れる”ことが大切です。
具体的な方法:
・ブランコでゆっくり大きく揺れる
・坂道やすべり台を繰り返す
・バランスボールの上に座り弾む
・クッションの上で歩く
・ペンギン歩き・クマ歩きで体幹に刺激を入れる
ポイントは「急に強い刺激を与えず、少しずつ刺激を増やす」ことです。
● 過剰反応の子へのアプローチ
過剰反応の子は、揺れや傾きを脳が“危険”として受け取りやすく、強い不安や吐き気が出ることがあります。
具体的な方法:
・揺れは小さく、ゆっくり
・地面にしっかり足がついた状態で遊ぶ
・体幹を安定させる運動(四つ這い、立ち座り)
・視線を安定させる活動(ボール転がし、的当て)
・安全な環境で少しずつ刺激に慣れる
大切なのは、「安心できる範囲で刺激に触れ、少しずつ経験を積む」ことです。
前庭覚は、姿勢・視線・体幹・自律神経など、子どもの「学びの準備状態」を整える基盤です。
姿勢が安定すると、視線が整い、注意が続き、学習意欲が生まれます。
目に見えにくい感覚だからこそ、保護者が理解することで、子どもの発達を大きく支えることができます。
今日のおさらいQ&A3問
Q1:平衡感覚(前庭覚)は何のために必要なのですか?
→前庭覚は「姿勢のコントロール」「眼球運動の安定」「自律神経の調整」を担う重要な感覚です。姿勢が安定し、視線がブレず、落ち着いていられることで、学習意欲や集中力の土台が整います。
Q2:動眼系がうまく働かないとどんな影響がありますか?
→視線がぶれやすく、読み書きが苦手になったり、黒板→ノートの視線移動が遅れたりします。また、ボールを追うのが難しい、行が飛ぶ、動くものを見失うといったサインが見られます。
Q3:平衡感覚へのアプローチはどのように行いますか?
→低反応の子には「ゆっくり大きく揺れる」「坂遊び」「バランスボール」など感覚を入れる活動が効果的です。過剰反応の子には「小さくゆっくり揺れる」「足が安定した遊び」「視線を安定させる活動」など不安を減らす段階的アプローチが有効です。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)