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幼児期の環境は“学びの抵抗”をなくす—私の経験と発達行動遺伝学

幼児期の環境は“学びの抵抗”をなくす—私の経験と発達行動遺伝学

私の幼少期を思い返すと、家の中にはいつも本がありました。絵本も親が定期的に購入してくれていたのか、周りにはたくさんの絵本があり特に『くまたくん』シリーズは、よく読んでいた気がします。祖父母の家にも百科事典が並んでいた覚えがありますし、祖母はよく社会やニュース、文化のことなどいろいろな話をしてくれました(ちなみに祖父は私が生まれる前に父方、母方ともに亡くなっています)。

父方の祖母も数年前に亡くなってしまいましたが、祖母は大正生まれの女性にも関わらず、とても教養の深い人でした。病床にあった時ですら、ニュースを欠かさず見ており、私がお見舞いに行くたびに日本経済や、イラク情勢の話すらするほどでした。

しかし、そんな祖母や家庭環境がありながら、中学・高校では理由もあり、塾での英語以外まったく勉強をしませんでした。学校の成績はひどく、通知表に「2」の数字すらたまにありました。科目によってはクラスどころか学年最下位をとったこともあります。

ただ、作文には自信があり、何かしらの賞を取ったり、多くの人の前で自分の意見を述べる代表に選ばれることもありました。

高校2年生の終わり、私は「やっぱり大学に行きたい、できればいい大学に」と思い、急にスイッチが入りました。それからは、ほぼゼロに近かった受験知識と学習量を必死に取り戻し、結果として、GMARCH、関関同立以上の大学の合格はいくつかもらい、第2希望だった大学の法学部へ進学することができました。

振り返ると、あのとき私を支えたのは──間違いなく「幼児期の教育」でした。
小さい頃に身についた「学ぶことへの抵抗のなさ」、そして「言葉の土台」。これがあったからこそ、長いブランクの後でも、学習へ戻ることができたのだと強く感じています。

この“幼児期の静かな土台”が後に効いてくる現象は、実は「発達行動遺伝学」とも関連すると考えています。

発達行動遺伝学の研究では、

  • 幼児期の能力は環境の影響がとても大きい(おおよそ60〜80%)
  • 年齢が上がるほど遺伝の影響が強まり、思春期にはIQの遺伝率が60〜80%に達する

ということが分かっています。
つまり、幼児期は人生でもっとも“環境が子どもを伸ばせる時期”なのです。

詳しい内容は後述しますが、この研究を知ったとき、
「だから自分はあのとき頑張れたのか」と不思議なほど納得しました。

※以前にも発達行動遺伝学の関しては記事を書いていますが、さらに掘り下げて書いていきます。
 発達行動遺伝学とは?幼児教育がとても大事な理由

【目次】

  1. 幼児期の教育が「学びの抵抗」をなくす理由
  2. 発達行動遺伝学とは何か?
  3. 私自身の経験を発達行動遺伝学で読み解く
  4. 幼児期の教育が“ゆっくり効く”科学的理由
  5. 前編のまとめ(後編へのつながり)


1.幼児期の教育が「学びの抵抗」をなくす理由

幼児期の教育は、点数や成果とは関係ありません。
でも、「学びに向かう姿勢」を作るうえで決定的な役割を果たします。

幼児期の子どもは、

  • 言葉を覚え、
  • 世界を理解し、
  • 「どうして?」と疑問を持ち、
  • 好奇心をエンジンに成長していきます。

そして、この時期の経験は「学びって楽しい」「知らないことを知るのは面白い」という感覚を育てます。

私が高校で勉強から離れていても、いざ必要になったときに「学ぶことへ戻れた」のは、まさにこの幼児期の感覚のおかげでした。

※これらの学びに向かう姿勢を作るうえでも発達のピラミッドが土台になります。
 幼児教育は学びの土台づくり 基礎感覚・身体調整・高次機能を育む

感覚統合の種類

2.発達行動遺伝学とは何か?簡単に解説

発達行動遺伝学とは、
「子どもの発達はどのくらい遺伝で決まり、どのくらい環境で変化するのか」
を研究する学問です。

基礎となるのは双子研究で、

  • 同じ遺伝子を持つ一卵性双生児
  • 遺伝子が半分の二卵性双生児

の共通点・違いを比べることで、
行動・性格・学力のどこまでが遺伝で説明できるかを調べます。

ここで大切なのは、
遺伝率が高い=変わらない、ではない
ということ。

例えばIQの遺伝率は、幼児期では20〜40%ですが、思春期には60〜80%ほどに上昇します。
これは「幼児期は環境が強く影響する」ことを意味します。

つまり、
幼児教育がもっとも効果を発揮するのは幼児期であり、発達行動遺伝学はその理由を示しているのです。

行動遺伝学の基礎をわかりやすく整理しているレビュー記事(PMC)


3.私自身の経験を発達行動遺伝学で読み解く

私の経験をもう一度振り返ると、

  • 絵本の多い家庭環境
  • 百科事典に触れる機会
  • 祖母との知的対話
  • 読み書きへの親しみ

これらは、発達行動遺伝学の視点で見ると「環境要因」の積み重ねです。

環境要因には、

  • 読み聞かせ
  • ことばのシャワー
  • 豊かな対話
  • 興味に触れられる機会

などが含まれます。

私はこれらによって、
「学びは楽しいもの」という価値観が幼児期から無意識に形成されていたのでしょう。

だからこそ、中学・高校の“勉強しない時期”を経ても、再び学習へ戻れたのだと思います。
発達行動遺伝学は、「土台があれば戻れる」ことも説明してくれます。

☆これは現在の私が挑戦する、学び続けることが大事であるという考えにもつながっている気がします。


4.幼児期の教育が“ゆっくり効く”科学的理由

幼児期は、大人の想像以上に脳が変化する時期です。

脳には「可塑性(かそせい)」という特性があります。
これは、経験に応じて神経回路が強化されたり、新しくつながったりする力のこと。

幼児期はこの可塑性が極めて高く、
読書・対話・遊び・感情体験など、日々の経験が脳の回路を大きく形づくります。

発達行動遺伝学では、
幼児期こそ環境が遺伝より強い影響を持つ時期である
と明らかにされており、

  • 環境が60〜80%
  • 遺伝が20〜40%

ほどと言われる領域もあります。

つまり幼児期は、
「親や他者の関わりや教育がもっとも子どもに届きやすい“黄金期”」なのです。

幼児期の読み聞かせや知的体験は、すぐに点数に現れるわけではありません。

しかし、本格的に学習に取り組む時期から10年後・15年後に効いてくる力を育ててくれます。


5.前編のまとめ(後編へ続く)

前編でお伝えしたかったのは、
幼児期の教育は、子どもの「学びに向かう姿勢」の土台を作るということ。

そして、その力はたとえ一度つまづいても、子どもが必要だと思ったときに再び立ち上がる“回復力”になります。

後編では、

  • IQ・語彙力・学力
  • 非認知能力
  • ADHD傾向
    など、さまざまな能力の「遺伝率の具体的な数字」をもとに、
    なぜ幼児教育が子どもの未来に大きな差を生むのか
    を発達行動遺伝学の視点から深く解説していきます。

今日のおさらいQ&A3問

Q1. 発達行動遺伝学とは何の研究ですか?

→子どもの発達において「遺伝」と「環境」がどの程度影響するかを調べる学問です。幼児教育の価値を理解するうえで重要な分野です。


Q2. 幼児期はなぜ“環境の影響”が大きいのですか?

→幼児期は脳の可塑性が最も高く、経験が神経回路を大きく形づくるためです。そのため環境の影響が60〜80%を占める領域もあります。


Q3. 著者の経験と発達行動遺伝学にはどんな関係がありますか?

→幼児期の読書や対話といった環境が「学びの土台」を作り、その後の人生で挫折から立ち直る力につながりました。発達行動遺伝学はその仕組みを科学的に説明します。



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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)

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