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感覚統合は“学びの土台”。「感覚」の育成が学習意欲を育てる

感覚統合は“学びの土台”。「感覚」の育成が学習意欲を育てる

幼児期の子どもたちは、目に見えない“感覚の世界”を通して、自分の身体と心を育てています。走ったり、触れたり、抱っこされたり、揺れたりといった日常の経験は、単なる遊びではなく「感覚統合」という大切なプロセスにつながっています。

私たちが当たり前の成長と感じている成長も、しっかりと「意識した教育」を行うことでその感覚はより研ぎ澄まされたものになります。

特に、触覚・平衡感覚(前庭覚)・固有覚の3つは、発達ピラミッドの最下層に位置し、学習意欲・集中力・対人関係といった“高次の力”の基盤になります。

本記事では、その中でも特に保護者の方から相談が多い「触覚」に焦点を当て、触覚の種類、触覚のつまずきで起こる行動、アタッチメントへの影響について詳しく解説します。

【目次】

  1. 感覚統合と発達ピラミッド
  2. 幼児期にとって重要な3つの感覚
  3. 「触覚」はなぜこれほど重要なのか
  4. 触覚のつまずきで起こる生活の困りごと
  5. 触覚防衛反応とアタッチメントへの影響
  6. 触覚鈍麻とは何か
  7. 平衡感覚と固有覚について(次回予告)**

感覚統合とは何か

― 子どもの「学びたい気持ち」を支える見えない土台

感覚統合とは、子どもが外から入ってくるさまざまな感覚(触覚・視覚・聴覚・平衡感覚・固有覚など)を脳の中で整理し、統合し、目的に合わせて使う力のことです。
感覚統合がうまくいくと、身体の動きが滑らかになり、注意が続き、他者との関わりにも余裕が生まれます。逆に、ここに偏りがあると、落ち着かなかったり、過剰に嫌がったり、または刺激を求めて動き続けたりといった行動につながりやすくなります。

幼児教育の現場で「最近、落ち着かずに動き回る子が多い」「触られるのを極端に嫌がる」「偏食が激しい」といった声が増えていますが、その背景には感覚統合の未発達が潜んでいることも珍しくありません。

感覚処理の問題の説明【Child Mind Institute(子どもの発達・心理支援の国際的機関)】


発達ピラミッドの最下層にある3つの感覚

― 触覚・平衡感覚・固有覚が“学習意欲”の根っこ

発達ピラミッドは、子どもの発達を「基礎 → 心身の調整 → 認知・言語 → 学習意欲・社会性」という層で表すモデルです。その最下層にあるのが次の3つの感覚です。

  • 触覚(タッチ)
  • 平衡感覚(前庭覚:バランス)
  • 固有覚(筋肉・関節の動きを感じる力)

これらは、いわば“心の地盤”となります。
地盤がゆるいと家が傾くように、これらの感覚が未熟だと、情緒・運動・学習への意欲にも影響が出ます。今回は、この中でも特に重要な触覚を深く掘り下げていきます。

※以前の記事です。発達のピラミッドの関係を中心に書いています。
 五感で育てる知性 幼児の感覚統合はすべての学習の土台になる

発達の階層構造のピラミッド。下から順に発達

「触覚」はなぜそれほど重要なのか

― 身体だけでなく“心の安心の土台”になる感覚

触覚は、人間がもっとも早く発達させる感覚であり、生まれた瞬間から大人になるまで、ずっと心の安全基地として働き続けます。

触覚には大きく2種類があります。


【1】原始系(防衛系の触覚)

危険から身を守るための触覚です。冷たい・熱い・チクチクするなど、不快刺激に対して反応し、身を引いたり避けたりする、本能的なシステムです。
これが過敏だと「触れられるのを嫌がる」「不快感を過剰に感じる」などの行動につながります。


【2】識別系(学習系の触覚)

“触って分かる力”です。例えば、ポケットの中の小物を見なくても区別したり、砂場遊びや積み木遊びを楽しんだりできるのは識別系が働いているからです。
識別系が弱いと「物を落としやすい」「手先の不器用さ」「姿勢が崩れやすい」などにつながります。


◆ 触覚のつまずきで起こること

― 生活の中の小さな「困った」が積み重なる

触覚の発達につまずきがあると、以下のような生活面の困難が現れることがあります。

・いつも落ち着かない、すぐに動き回る
・人との距離感がつかめない
・抱っこやスキンシップを過剰に嫌がる
・逆に、強い抱きつきや押しつけを求める
・衣服のタグ、靴下の縫い目などを極端に嫌がる
・偏食が激しい(食感に強く反応するため)
・砂や粘土が触れない

これらは性格だけの問題ではなく、触覚の処理の仕方に偏りがあるサインである場合があります。


◆ 触覚防衛反応とは

― 過剰に「危険」と判断してしまう脳の反応

触覚防衛反応とは、本来は危険ではない刺激に対して、脳が“危険だ”と誤って判断してしまう状態です。これにより、日常生活にさまざまな困りごとが起こります。


● 身に着けるものの拒否

タグ付きの服が着られない、帽子を嫌がる、靴下の縫い目で不機嫌になるなど、保護者の方が悩みやすいポイントです。


● 触れられることへの拒否(スキンシップの困難)

抱っこ・手つなぎ・美容院で髪に触れられるなど、他者との接触を嫌がります。
触れられる刺激が「危険」と誤って処理されるため、強い拒否反応が出ることがあります。

この状態が強いと、自閉スペクトラム傾向と似た行動が見られる場合もあり、アタッチメント形成に影響が出ることがあります。


● 触れるものへの偏り

逆に、常に強い刺激を求める子もいます。髪の毛を引っ張る、物をかじる、いつも手を口に入れるなどは、触覚が過敏または鈍麻の両面で見られます。


◆ アタッチメントに与える大きな影響

― 「触れられる安心」が得られないと心の土台が揺らぐ

触覚は、スキンシップを通して親子の信頼関係を育てる重要な感覚です。
抱っこ、膝に座る、手をつなぐ、添い寝…これらはすべて、触覚を通して「守られている」「安心できる」という体験につながります。

しかし触覚防衛反応が強いと、子どもはスキンシップ自体を拒むようになり、
愛着関係(アタッチメント)が育ちにくい環境になります。

その結果、
・対人関係の難しさ
・自己刺激行動(手を振る、体を大きく揺らすなど)
・情緒の不安定さ
につながりやすくなります。

※アタッチメントの重要さについてはこちらをご覧ください。
 アタッチメントと幼児教育が非認知能力を育てる


◆ 触覚鈍麻というもう一つの課題

― 刺激が「足りない」から求め続ける

触覚防衛とは逆に、“触覚が十分に感じられない状態”が触覚鈍麻です。
この場合、子どもは強い刺激を求めて行動するようになります。

・強く抱きつく
・物を噛み続ける
・乱暴に触る
・転んでも泣かない
・痛みに鈍い

こうした行動は「乱暴」「落ち着きがない」と誤解されることもありますが、背景には感覚の偏りがあることが少なくありません。


◆ 平衡感覚と固有覚について(次回予告)

今回は「触覚」を中心にお話ししましたが、実際には平衡感覚(前庭覚)と固有覚も触覚と密接に連動して働いています。
バランスの良さ、姿勢の安定、運動の滑らかさ、そして学習時の集中力に大きく影響するため、次回以降の記事で詳しく取り上げます。


今日のおさらいQ&A3問

Q1:触覚はなぜ幼児期に特に重要なのですか?

→生まれて最初に発達する感覚であり、安心感・スキンシップ・対人関係の基盤になるためです。触覚が安定すると、姿勢や学習意欲にもよい影響を与えます。


Q2:触覚防衛反応がある子はどんな行動を見せますか?

→抱っこや手つなぎを嫌がる、服のタグや靴下の縫い目に強い拒否を示す、砂や粘土を触れないなどの行動が見られます。日常生活で「異常な嫌がり方」をする場合は可能性があります。


Q3:触覚のつまずきはアタッチメントにも影響しますか?

→はい。スキンシップが不快として処理されるため、親子の距離が広がり、安心感の形成が難しくなることがあります。結果として対人関係や情緒の安定にも影響が出やすくなります。



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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)

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