レジリエンス・「立ち直る力」を支える能力
前回に続いてレジリエンスについての記事です。本日はレジリエンスを構成する力を具体的に説明します。
レジリエンス─折れても、また立ち上がれる子に
子どもが成長していく過程には、失敗・衝突・不安・我慢・混乱……。いわゆる「小さなつまずき」が毎日のように起こります。しかし、そこで立ち直る力=レジリエンスが育っている子どもは、困難を経験するたびに“強く”“しなやかに”成長します。
今回の連載では、そのレジリエンスを 具体的に構成する力 を、幼児教育の観点から丁寧に解説していきます。
第1回の今日は、レジリエンスの正体を分解し、「どんな能力が関わっているのか」「それらがいつ発達し始めるのか」「どう育てればよいのか」をわかりやすくまとめます。
(目次)
- レジリエンスを構成する力とは
- 考え方を修正できる力
- 忘れる力
- 考えを受け入れる力
- 質問する力
- 年齢ごとの発達のめやす
- 能力を育てるために必要なこと
1.レジリエンスを構成する力とは
レジリエンスは「立ち直る力」とひとことでは片付けられません。
単なる“我慢”でも“根性”でもなく、もっと複雑で、もっと人間的な力です。
レジリエンスは大きく以下のような力の集合体としてとらえられます。
- 考え方を修正できる力(柔軟性・修正力・独創的な視点)
- 忘れる力(心を守るためのリセット能力)
- 考えを受け入れる力(素直さ・受容性)
- 質問する力(“できない”と言える力・助けを求める力)
これらは単独で存在するのではなく、まるで歯車のようにかみ合い、お互いを補いながらレジリエンスという“大きな力”を作っています。
2.考え方を修正できる力
2-1 修正力──「間違えたかも」と気づける力
子どもが成長するうえで最も重要なのは、正解を知ることではなく、
“自分の考えが間違っていたかもしれない”と気づける感性 です。
たとえば幼児期の子が積み木を崩してしまい「僕が悪い子だからだ」と思い込むことがあります。ここで大人の役割は、「崩れるのは普通のことだよ」と、考えを“修正するきっかけ”を与えてあげること。
修正力は、失敗を攻撃的に捉えず、前向きな学びに変える力です。
2-2 柔軟な思考力──違う視点を持てる力
柔軟性は、レジリエンスの核となる能力です。
「こうじゃなきゃダメ」を「こういうやり方もあるかも」へと切り替える力。
これは幼児にとって非常に難しく、同じブロックを延々と積み続けたり、同じ遊び方に固執したりするのは、まだ脳の構造として“柔らかい切り替え”が未熟だからです。
大人が少し方向を示すだけで、「あ、こういう遊び方もあるんだ!」と世界が広がります。
2-3 独創力──困難を“別のルート”で越える力
行き止まりに見える場所でも、別の道を見つけるのが独創力。
レジリエンスは「工夫の数だけ強くなる」と言っても過言ではありません。
独創力は、決して芸術家の才能というわけではなく、
“困ったときに新しい解決法を思いつく力” のことです。
子どもは本来、独創性の塊です。しかし、大人の指示が多すぎると、この芽が潰れてしまうため、見守りと自由度のバランスが非常に重要になります。
3.忘れる力──心を守り、回復するためのリセット能力
レジリエンス研究では近年、「忘れる力」 が重要だと注目されています。
3-1 誤った信念を抱き続ける危険性
「できなかった自分はダメだ」
「失敗するのが怖い」
「怒られるから挑戦しない」
これらは誤った信念(irrational beliefs)と呼ばれ、積み重なると子どもの挑戦心を根こそぎ奪ってしまいます。
忘れる力は、ネガティブな経験をすべて捨てるという意味ではなく、
“必要以上に自分を責め続けない力” のことです。
3-2 心の回復には“忘却”が不可欠
泣いた後にケロッとして遊び始める子どもの姿は、まさにレジリエンスそのものです。大人はつい「あれだけ泣いてたのに…?」と思いますが、あれは脳がうまく“リセット”している証拠です。
忘れる力は、心の自然治癒力とも言えます。
4.考えを受け入れる力──素直さは最強のレジリエンス
レジリエンスの中でも、もっとも人間らしい能力が 考えを受け入れる力 です。
子どもが大人の言葉を受け止められるようになるには、
それまでの関わりの中で、
「この大人は自分を理解してくれる」
という信頼が育っていることが不可欠です。
素直さは、生まれつきではなく“安心感の総量”で決まります。
受け入れる力が育つと、アドバイスを拒否せず、新しい選択肢を歓迎し、結果としてレジリエンスが何倍にも高まります。
5.質問する力──「できない」は前進のサイン
質問する力は、レジリエンスの象徴ともいえる能力です。
5-1 「できない」はネガティブではない
「できない」と言える子どもは、実はとても強い。
なぜなら、その裏には必ず
“できるようになりたい”
という前向きな気持ちがあるからです。
5-2 助けを求める力が未来の成功につながる
質問する力は、幼児期から育てられます。
わからないことを大人に聞くことは、恥ではなく、人間の自然な適応行動です。
むしろ質問できない状態のほうが、レジリエンスの観点では危険です。
6.年齢ごとの発達のめやす
幼児教育の現場から、以下のような発達傾向があります。
- 2〜3歳:忘れる力が最も強い。泣いてもすぐ回復する。
- 3〜4歳:受け入れる力・質問する力が芽生える。「なんで?」が増える時期。
- 4〜5歳:柔軟な思考・修正力が発達。「こうすればできるかな?」の姿が見られる。
- 5〜6歳:独創力が遊びの中で爆発する。レジリエンスの基盤が整い、挑戦が増える。
もちろん個人差はありますが、上記の流れを理解していると、保護者が子どもの反応を安心して見守れるようになります。
7.能力を育てるために必要なこと
今回説明したレジリエンスを構成する力は、次のような関わりで伸びていきます。
7-1 安心感の土台をつくること
素直さ・受け入れる力のベースになります。
否定よりも共感を先に伝え、子どもの気持ちを丸ごと受け止める姿勢が不可欠です。
※アタッチメントは安心感の土台につながります。
「アタッチメント(愛着)」について—子どもの“心の土台”になる力
7-2 失敗を“悪いもの”にしないこと
ミスを責めるのではなく「どうすればうまくいくかな」と問いかけ続けることで、修正力が大きく伸びます。
※過程をほめるほめ方もこれにつながります。
子どもを伸ばす正しい「ほめ方」―才能ではなく努力を認める
7-3 質問を歓迎する姿勢
幼児にとって質問は勇気の証です。「よく聞いてくれたね」と伝えると、質問する力がぐんと伸びます。
※上記のリンク先の記事である「結果(才能)ではなく、行為(努力)をほめること」はこの項目にもつながります。
7-4 遊びの中で独創力を刺激すること
完成形のある遊びよりも、自由度の高い遊び(ブロック、砂、水、想像遊びなど)が独創力の発達に最適です。
※発達のピラミッドの教育にもつながります。
幼児教育は学びの土台づくり 基礎感覚・身体調整・高次機能を育む
7-5 忘れる力を妨げないこと
泣き止まない時にむやみに説得したり叱ったりすると、逆に気持ちのリセットが妨げられます。落ち着いたらそっと寄り添い、気持ちを切り替えられる環境を整えることが大切です。
子どものウェルビーイングに重要なレジリエンスを育むために(Benesse教育研究所)
※幼児期〜児童期のレジリエンスの育成について実践的に整理されています。
レジリエンスは「生まれつき強い子にしか備わらない力」ではありません。
幼児期の毎日の関わりで、確実に育つ力です。
次回もまたレジリエンスを構成する力について触れていきたいと思います。

今日のおさらいQ&A3問
Q1.「忘れる力」って、本当に教育に必要なの?
A→必要です。
幼児の脳はまだ未成熟で、強いストレスや不安を「その日のうちに忘れる」ことで心の安定を保っています。これは“問題から逃げる”のではなく、必要以上に自分を責め続けないための自然な回復力です。
忘れる力がある子ほど、新しい挑戦に踏み出しやすく、結果としてレジリエンスが高まります。
Q2.「できない」と言う子は弱い?レジリエンスが低いの?
→いいえ、むしろ強いサインです。
「できない」と口にできるのは、できるようになりたい気持ちの裏返し。
自分の現在地を認め、他者に助けを求められるのは立派なレジリエンスです。
逆に“できないのに黙ってしまう子”のほうが、心の壁を抱えている場合があります。
Q3. レジリエンスを育てるのに、家庭で一番大切なことは?
→子どもの感情を“まず受け止める”ことです。
修正力・柔軟性・質問する力・素直さなど、すべての土台は 安心感。
大人が先に否定せず、「そう思ったんだね」「悔しかったね」
と気持ちを受け止めてあげるだけで、子どもは安心して学びや挑戦に向かえるようになります。
レジリエンスは“失敗の量”ではなく、“失敗しても大丈夫と思える環境”から育つ力です。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)