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オーストラリアの「16歳未満SNS全面禁止」をどう読むか【前編】

オーストラリアの「16歳未満SNS全面禁止」をどう読むか【前編】

12月9日にこんなニュースが報じられました。

豪、子供SNS禁止が施行 実効性に課題、法廷闘争も
オーストラリアで16歳未満の子供のSNS利用を禁止する法律が現地時間10日、施行された。
国レベルでの禁止措置は世界で初めて(シドニー時事)。
※ヤフーニュースの記事なのですぐに消える可能性があります。

コメント欄を見る限り、賛成の意見がかなり多いようです。
私自身はなかなか決めかねる問題ですが、ひとまず情報を整理したいと思います。

まず、このような法律が世界で作られたと報じられたら、単純に法律の内容のみで賛否を判断しがちです。しかし、外国には外国ならではの事情があります。


例えば、日本は放火の罪が他国と比較してもかなり重いものになっています。
人が住んでいる住居に放火した場合、死刑と無期懲役しかありません(殺人罪ですら5年以上の有期懲役の場合があります)。
それは日本の国土の狭さや、密集している住宅事情、木製の家屋の多さなど日本特有の事情があるからです。

他にも、たまに聞くかと思いますが今アメリカでは銃の無差別銃撃が社会的な問題となり、多数の死者も出ています。
そして「アメリカはなぜ銃規制しないのか」「たくさん無差別殺傷が起きているじゃないか」と銃規制をしないアメリカに対して、日本人の視点だとつい疑問に思ってしまいます。

しかし、そこにはアメリカならではの歴史的、政治的、社会的事情があります。


アメリカは国土が広大で、警察がすぐ来られない地域も多く、「自分の身は自分で守る」という自己防衛思想が強く根づいています。

また、銃所持は、アメリカの狩猟文化、開拓者精神、自由を守る象徴として語られ、「権利の一部」と感じている人も多く、規制=自由の侵害という考えもあります。

さらに、政府の暴走には銃を持ってでも個人が立ち向かわなければならないという考えもあります。
これは見方によっては、政府が暴走したらその暴走は私たちの手で止めなければならない、という国民の(自由を守るという)意気込みすら感じるものです。

それにそもそもアメリカは憲法で「武器の所有が人民の権利」として認められています(しかも2条で、かなり重要文です)。

つまりアメリカの事情を知らず、日本人という立場からのみで「銃規制できないアメリカ」を疑問視してもあまり意味がないということです。

長くなりましたが、他国の法律を語る時は、その他国の事情をよく考えたうえで判断する必要があると私は思っています。

ということで、今回はこのオーストラリアの16歳未満のSNS規制法を考えてみますが、まずは法の内容やオーストラリアの事情に関して整理してみたいと思います(前編)。
そのうえで、日本は取り入れるべきか、どう考えるべきかを記事にしたいと考えています(後編)。

■目次

  1. 豪州の新法「16歳未満SNS全面禁止」とは何か
  2. 豪州がここまで踏み込んだ“地理的理由”
  3. 歴史から見る:なぜ豪州では“子ども保護に国家が強く介入”するのか
  4. 多文化社会という前提──家庭の教育力の差が大きすぎる問題
  5. 豪州国内の賛否:強い賛成世論と、冷静な反対意見
  6. 日本で賛成の声が増える理由
  7. 前編のまとめと後編予告

※たまに教育に関係する時事問題にも触れています。
 「不登校は親が悪い」富士宮市長の発言を考える
 スマホ規制条例案を考えてみるー法的視点と幼児教育からの視点

子どもとスマホの付き合い方

1. 豪州の新法「16歳未満SNS全面禁止」とは何か

まず、法律の正確な内容を押さえることが重要です。
今回オーストラリアで可決された Online Safety Amendment (Social Media Minimum Age) Act 2024 は、非常に強力な規制です。

世界初の国レベルの16歳未満の子供のSNS利用を禁止する法律ということで、日本を含めて世界的に注目されている法律です。

●法律の概要

  • 16歳未満は、SNSアカウントを作成・保持することが全面禁止
  • 保護者の同意があっても例外は認められません。
  • 対象となるSNSは、
     Instagram、TikTok、YouTube、Snapchat、X(旧Twitter)など、政府が指定する主要プラットフォーム。
  • 違反したSNS企業は、最大 4950万豪ドル(約51億円) の罰金を科されます。
  • 2025年12月施行。

特筆すべきは、子どもや保護者に罰則がないこと。
あくまで責任は「SNS企業側」に置かれています。
つまり、国家が「子どもの安全を守る責任は企業にもある」と明確に示した形です。

背景には、児童搾取(性加害)や自殺関連情報の増加など、オンライン上での深刻な問題があります。


2. 豪州がここまで踏み込んだ“地理的理由”

日本とオーストラリアを比べると、まず最初に見落としがちなのが“地理”です。

オーストラリアは国土が日本の約20倍なのに、人口は日本の5分の1以下。
多くの家庭が都市から離れて暮らしており、
子どもを見守る「地域の目」が物理的に届きにくいという構造的課題があります。

そのため──

  • SNSで危険な人物と接触しても、気付くのが遅れやすい
  • 相談できる場所が近くにない
  • 保護者自身も孤立しやすい

といった問題が起きやすい。

日本のように学校・地域コミュニティが密集している社会とは全く異なり、
“オンラインでの危険=直接的で重大なリスク”につながりやすい国なのです。


3. 歴史から見る:なぜ豪州では子ども保護に国家が強く介入するのか

豪州には、子どもをめぐる社会問題に国家が深く関与してきた歴史があります。

代表的なのが
「Stolen Generations(盗まれた世代)」問題というものがあります。
オーストラリアは移民によって成立した比較的新しい国家です。
土地を所有・支配するために先住民を追いやった歴史があります。
先住民の子どもを親から強制的に引き離し、収容施設で育てたという過去があります。

さらに近年、学校や教会での児童虐待が全国規模で問題視され、政府調査が行われました。
これは深くキリスト教が浸透していない日本ではそこまで聞くニュースではありませんが、キリスト教の国家ではとても深刻な問題となっています。

カトリック教会の性的虐待事件(Wikipedia)

こうした歴史を経て、豪州社会には
「国は子どもを守るために積極的に介入すべきである」
という価値観が深く根付いています。

日本とは異なり、
“家庭に任せる文化”ではなく、“国家が守る文化”に近いのです。


4. 多文化社会という前提─家庭の教育力の差が大きすぎる問題

オーストラリアは世界有数の移民国家であり、
家庭ごとに文化、宗教、教育観が大きく異なります。

  • SNSの危険性を理解している家庭
  • 文化的背景から監督が難しい家庭
  • 言語の違いから情報アクセスが難しい家庭

こうした差が非常に大きい。

結果として、
「家庭任せでは守れない子どもが多い」
という現実があります。

多文化社会では、
「社会全体の共通認識」というものが形成されにくく、
国家がルールを統一しなければ、弱い立場の子どもを守りきれないという事情があります。


5. 豪州国内の賛否:強い賛成と、合理的な反対

●賛成の声

  • オンライン誘引の深刻化
  • 自殺関連コンテンツの増加
  • SNS企業の監督不十分への不満
  • 家庭が広域で孤立しやすい地理背景

「もっと早くやるべきだった」という声も多く、
賛成世論は非常に強い。
※このあたりは日本でもよく聞くことだと思います。

●反対の声

ただし、冷静な反対意見も存在します。

  • 年齢確認のための 顔認証技術が「監視社会」につながる懸念
  • 地方の子どもにとってSNSは“唯一の友達とのつながり”という現実
  • 技術的に抜け道(VPN[IPアドレスを海外経由に見せる技術])が可能
  • 政治的パフォーマンスとの批判

このように、賛成も反対も“それぞれ筋の通った理由”があり、
社会全体が真剣に議論していることがわかります。

私はこの2番目の「地方の子どもにとってSNSは“唯一の友達とのつながり”という現実」ここがかなり重要だと考えています。詳しくは後編でお伝えします。


6. 日本で賛成の声が増える理由

実は日本でも、豪州に近い“危機感”が高まっています。
SNSの問題が子どもの心身に直結しやすく、保護者の不安も深刻になっています。

  • 24時間いじめ
  • 自殺関連情報へのアクセス
  • 性的被害の増加
  • 匿名による中傷
  • 大人の誘引(出会い系目的)
  • アルゴリズム依存による思考の偏り

SNSの危険性が “目に見える形” で広がり、
保護者側が「もう家庭だけでは守れない」と感じ始めているのです。

そのため、
「日本も16歳未満禁止を検討すべきでは?」
という声が急速に強まっています。


7. 前編まとめ

オーストラリアの「16歳未満SNS全面禁止」は、
日本の保護者が感じる想像以上に強い政策です。

しかし、
豪州がここまで踏み込んだ理由には、

  • 広大な地理的環境
  • 子ども保護に国家が強く関与してきた歴史
  • 多文化社会特有の教育格差
  • SNS被害の深刻化

という、“豪州という国ならではの必然”があることが見えてきます。

日本もSNS被害への危機感は同じく高まっていますが、
日本がそのまま豪州の政策をコピーできるかといえば、
社会構造が全く違うため、簡単ではありません。

後編では、
「では日本はどのようなSNS対策を取るべきなのか?」
を、現実的な選択肢として深堀りしていきます。
 ※後半できました!【後編】豪州のSNS規制法案ー日本はどうすべきか


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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)

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