子どもの道徳性の発達をコールバーグ理論から考える

最近、教育時事問題が多かったので、久しぶりに発達教育論についての記事です。

子どもがある日、こんなことを言い出す瞬間があります。
「ズルしたらダメだよ」「それはずるいと思う」「でも、かわいそうだったんだよ」

親としては、少し驚き、そして嬉しくもなる瞬間です。
“正しい・正しくない”を、自分の言葉で考え始めているからです。

子どもの道徳性は、生まれつき備わっているものではありません。
日々の経験や人との関わりの中で、少しずつ形づくられていきます。

この記事では、子どもの道徳性の発達を理解するうえで欠かせない
コールバーグの道徳性発達理論を軸に、

• 子どもはどのように「善悪」を考えるようになるのか
• なぜ結果より「理由」が大切なのか
• 幼児期に家庭や教育現場でできる関わりとは何か

を、30代・40代の乳幼児を育てる保護者の方に向けて、できるだけ分かりやすくお伝えします。

【目次】

1. コールバーグとはどんな心理学者か
2. ハインツのジレンマ課題とは
3. コールバーグの道徳性発達段階
4. 研究から見えてくる子どもの心
5. 幼児教育と道徳性の深い関係

コールバーグとはどんな心理学者か

ピアジェの理論を発展させた研究

ローレンス・コールバーグは、アメリカの発達心理学者です。
彼は、子どもの「道徳的な判断」がどのように発達していくのかを、長年にわたって研究しました。

この研究の出発点となったのが、ジャン・ピアジェの考え方です。
ピアジェは、子どもの道徳性が「大人のルールを守る段階」から、「自分で考えて判断する段階」へと発展していくことを示しました。

コールバーグは、このピアジェの視点をさらに発展させ、
「年齢とともに、道徳的な考え方そのものが質的に変化する」
という点に注目しました。

※　ピアジェは何度も取り上げています。ブログのカテゴリーにもまとめています。よろしければ参考にしてください。
　　子どもは“小さな科学者”　ピアジェの発達段階理論と幼児教育の関係

どんな研究をしたのか

判断の結果よりも「理由」に注目

コールバーグの研究で特徴的なのは、
「何を選んだか」ではなく、「なぜそう考えたのか」を重視した点です。

彼は、子どもから大人まで幅広い年齢層に対して、ある道徳的な葛藤場面を提示し、
「どうすると思う？」
「なぜそう思う？」
と質問を重ねました。

同じ「はい」「いいえ」という答えであっても、
その理由には大きな違いがあることが分かってきたのです。
これまで発達心理学についての課題を取り上げてきました。
サリー・アン課題でわかる「他人の心を読む力」子どもの“心の理論”
ジョンとメアリー課題でわかる！二次の心の理論と子どもの成長

コールバーグの提示した「課題」もなかなか面白いので、皆さんも子どもがどう答えるか、考えてみてください。

ハインツのジレンマ課題とは

コールバーグの研究で最も有名なのが、ハインツのジレンマ課題です。

以下は、その代表的なストーリーです。

ある町に、ハインツという男性がいました。
ハインツの妻は重い病気にかかり、命に関わる状態でした。

その病気を治せる薬は、町に一人いる薬屋だけが持っていました。
しかしその薬はとても高く、ハインツが持っているお金では半分しか払えません。

ハインツは薬屋に事情を説明し、
「残りは後で必ず払うから、今は薬を売ってほしい」と頼みました。

しかし薬屋はそれを断ります。
「これは私の薬だ。正当な値段でなければ売らない」

追い詰められたハインツは、夜中に薬屋に侵入し、薬を盗みました。

ここで、質問が投げかけられます。

• ハインツは、薬を盗むべきだったでしょうか
• それは正しい行為でしょうか、間違った行為でしょうか
• なぜそう思いますか

重要なのは、「盗んだかどうか」ではなく、
その行為をどう捉え、どんな理由で判断するかです。

コールバーグの道徳性発達段階

課題を通して見えてきた3つの水準

このジレンマ課題への答え方を分析した結果、
コールバーグは道徳性の発達を3つの水準に整理しました。

前慣習的水準

「罰を避けたい」「得をしたい」という視点

この段階では、善悪の判断はとてもシンプルです。
「怒られるかどうか」「損か得か」が基準になります。

たとえば、
「盗むのはダメ。だって捕まるから」
「いいことをすると褒められるからやる」

幼児期から小学校低学年頃に多く見られる考え方で、
行動の基準は自分への影響です。

慣習的水準

「みんながどう思うか」「ルールを守ること」

成長すると、子どもは周囲の目を意識し始めます。

「悪いことだと思われるから」
「法律で決まっているから」
「みんなが守っているルールだから」

この段階では、社会の秩序や役割を重視するようになります。
小学校高学年から思春期にかけて、多くの人がこの水準に到達します。

慣習的以降の自律的水準

「人として何が正しいか」を考える

さらに発達すると、
「ルールは何のためにあるのか」
「命や人権は法律よりも大切ではないか」
といった、より抽象的な価値を考えるようになります。

ハインツの例で言えば、
「盗みは悪いが、命を守ることの方が重要だ」
といった判断がここに当たります。

この段階に到達する人は多くはなく、
大人になってからも発達し続ける可能性があるとされています。

コールバーグの道徳的発達段階（Simply Psychology）

コールバーグの研究から見えてくること

子どもは「理由」を育てている

この理論から分かる大切な点は、
子どもは間違いながら、考えながら、道徳性を育てているということです。

「今はまだ自分のことしか考えていない」
「ルールだから守っているだけ」

それは未熟さではなく、発達の途中なのです。

大切なのは、正しい答えを言わせることではなく、
「どうしてそう思ったの？」と問いかけ、
考える機会を奪わないことです。

※子どもの規範意識についての記事です。少し関連しています。
　子どもの「規範意識」をどう育てる？自由とルールのバランスが大事

幼児教育との関係性

道徳性は教え込むものではなく、育つもの

幼児期の子どもに、
「これは正しい」「これは間違い」と教えることは簡単です。

しかし、それだけでは道徳性は深まりません。

遊びの中でのトラブル、おもちゃの取り合い、友だちの気持ちに触れる経験。

こうした日常の出来事こそが、「なぜダメだったのか」「どうしたらよかったのか」
を考える土台になります。

大人ができるのは、すぐに答えを与えることではなく、
子どもの考えに耳を傾け、言葉にする手助けをすることです。

道徳性は、叱って身につくものではありません。
安心できる関係の中で、少しずつ育っていくものなのです。

子どもが「それって本当に正しいの？」と考え始めたとき、
それは心が一段階、成長したサインかもしれません。

その問いを大切に受け止め、
一緒に考える時間こそが、
未来の「自分で判断できる力」につながっていきます。

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執筆：中山　快（株式会社リコポ 代表）