子どもの道徳発達について ギリガンとは?
コールバーグ批判と「ヤマアラシとモグラ」から考える、子どもの道徳心の育ち
前回は、コールバーグの道徳性発達理論と、ハインツのジレンマについて見てきました。
今回はその続きとして、コールバーグを批判した心理学者キャロル・ギリガンの考えを取り上げます。
「ルールとして正しいか」だけでなく、
「相手を傷つけないか」「関係をどう守るか」も大切ではないか。
そんな視点は、子どもの育ちを考えるうえでも、とても参考になります。
※前回記事 コールバーグの道徳性発達理論 子どもの道徳の育ち方
目次
- ギリガンとはどんな人か
- ギリガンとコールバーグの違い
- ヤマアラシとモグラの話
- ヤマアラシとモグラの話とハインツのジレンマをどう見るか
- ギリガンの考えを幼児教育にどう生かすか
- 親が子どもにできること
1. ギリガンとはどんな人か
キャロル・ギリガンは、アメリカの発達心理学者です。女の子や女性の道徳発達の研究で知られ、1982年の著書『もうひとつの声(In a Different Voice)』で大きな注目を集めました。ハーバード大学では、コールバーグの研究にも近い場所で仕事をしており、そこで道徳発達研究の偏りに気づいたとされています。
ギリガンが問題にしたのは、従来の道徳研究が正義・権利・公平さを中心に見すぎていたことです。彼女は、それだけでは人の道徳を十分に捉えきれず、関係を大切にすること、相手に配慮すること、傷つけないように考えることもまた大切な道徳の声だと主張しました。これがよく知られるケアの倫理の視点です。
参考:キャロル・ギリガン(ブリタニカ)
2. ギリガンとコールバーグの違い
コールバーグは、子どもの道徳判断が「罰を避ける」段階から、「社会のルール」「普遍的な正義」へと発達すると考えました。代表的な問いが、前回扱ったハインツのジレンマです。そこでは「薬を盗むべきか」が問われますが、重要なのは答えそのものではなく、どんな理由でそう考えたかでした。
一方のギリガンは、その見方だけでは不十分だと考えました。
人は「正しいかどうか」だけでなく、
「誰が傷つくのか」
「関係をどう守るのか」
「みんなが生きていける形はないか」
というふうにも考えるからです。
違いを整理すると、次のようになります。
| 視点 | コールバーグ | ギリガン |
|---|---|---|
| 注目点 | 正義・権利・ルール | 関係・配慮・責任 |
| 道徳の中心 | 公平さや原理 | 傷つけないこと、支え合い |
| 問いの見方 | 何が正しいか | どうすれば誰も深く傷つかないか |
| 子どもへの示唆 | 理由づけの発達を見る | 関係を考える力も大切にする |
ただし、ここで「コールバーグは間違い、ギリガンが正しい」と単純に分ける必要はありません。現在では、正義の視点も、ケアの視点も、どちらも人間の道徳にとって大切だと考えられることが多いです。またギリガン自身も、後年にはケアを単なる「女性だけの声」として固定する読み方には距離を取り、より人間一般の声として語っています。
参考:ケア倫理(哲学のインターネット)
3. ヤマアラシとモグラの話
ギリガンの考えを説明するとき、日本ではしばしば「ヤマアラシとモグラの話」が紹介されます。寒い冬、住む場所のないヤマアラシが、モグラの家族に「洞穴に入れてほしい」と頼みます。親切なモグラたちは受け入れますが、狭い洞穴の中でヤマアラシが動くたび、針が当たってモグラたちは傷ついてしまいます。そこでモグラたちは「出ていってほしい」と頼みますが、ヤマアラシは断ります。さて、どう考えるか――という話です。
この話の面白さは、「どちらが絶対に悪い」とすぐ決めにくいところです。モグラの家だからモグラの権利を優先する見方もできますし、寒さの中でヤマアラシを追い出すのは酷ではないか、という見方もできます。さらに、追い出すか我慢するかの二択ではなく、何か工夫して一緒に暮らせないかという発想も出てきます。そこに、ギリガンの言う「ケアの視点」がよく表れています。
4. ヤマアラシとモグラの話とハインツのジレンマをどう見るか
前回のハインツのジレンマは、「法を破ってでも命を優先するべきか」という問いでした。ここでは、法律、財産権、人命といった原理どうしの衝突が前面に出ます。だからコールバーグの理論ととても相性がよく、どの段階の理由づけかを見やすいのです。
それに対して、ヤマアラシとモグラの話は、「正しいのはどちらか」を決めるよりも、傷つき合う関係をどう調整するかが中心になります。ここでは、単にルールを当てはめるだけでは足りません。相手の弱さ、こちらの痛み、共に暮らす難しさ、そうした現実の中で答えを探すことになります。
この2つを並べて見ると、違いがよく分かります。
- ハインツのジレンマ
「何が正しいか」を考えやすい問い - ヤマアラシとモグラの話
「どうすればみんなが少しでも傷つかずに済むか」を考えやすい問い
つまり、コールバーグは正義の筋道を見せ、ギリガンは関係の中の思いやりを見せてくれるのです。どちらか一方だけでは、子どもの道徳心を十分には捉えきれません。

5. ギリガンの考えを幼児教育にどう生かすか
幼児教育で大切なのは、子どもに立派な正解を言わせることではありません。
まずは、
「お友だちはどんな気持ちかな」
「どうしたら一緒に遊べるかな」
と考える土台を育てることです。
たとえば、おもちゃの取り合いが起きたときに、ただ「ダメでしょ」と止めるだけでは、子どもは「怒られるからやめよう」で終わるかもしれません。もちろん、それも発達の初期には自然です。けれど一歩進めて、「貸してほしかったんだね」「取られたら悲しいね」「どうしたら2人とも困らないかな」と言葉にしていくと、子どもは少しずつ相手の気持ちと関係の調整を学んでいきます。これはまさに、ギリガンが光を当てた部分です。
幼児期は、まだ抽象的な「正義」を語る時期ではありません。けれど、日々の生活の中で
順番を待つ、
相手の表情を見る、
「ごめんね」「どうぞ」を経験する、
そうした小さなやりとりの積み重ねが、後の道徳性の土台になります。コールバーグの視点で見れば理由づけの芽が育つ時期であり、ギリガンの視点で見れば関係を大切にする感覚が育つ時期とも言えます。
6. 親が子どもにできること
保護者としては、子どものトラブルに出会うたびに「どっちが悪いの?」と白黒を急ぎたくなることがあります。もちろん、危険な行動や乱暴はしっかり止める必要があります。けれど、その後に少しだけでも、気持ちと関係に目を向ける時間を持てると、子どもの学びは深まります。
たとえば、こんな声かけです。
- 「どうしてそうしたくなったのかな」
- 「相手はどんな気持ちだったと思う?」
- 「どうしたら2人とも少し気持ちよく終われるかな」
この問いかけは、子どもを責めるためではなく、考える力を育てるためのものです。正しさだけでなく、やさしさや調整の力も育てていく。そこに、ギリガンの考えの大きな価値があります。
まとめ
コールバーグは、子どもの道徳判断がどう発達していくかを、正義やルールの視点から整理しました。
ギリガンはそこに対して、人は関係の中で悩み、相手を傷つけないように考える存在でもあると教えてくれました。
ハインツのジレンマは「正しさ」を考える問いです。
ヤマアラシとモグラの話は「共に生きる難しさ」を考える問いです。
そして子育てでは、その両方が大切です。
子どもは、ただルールを覚えるだけで育つわけではありません。
人との関わりの中で、迷いながら、傷ついたり、やり直したりしながら、少しずつ道徳心を育てていきます。
だからこそ親も、「正しい答え」を急がせるより、どう感じたか、どうすればよかったかを一緒に考える存在でありたいですね。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)