視覚と聴覚の対応 赤ちゃんは見える口と聞こえる声をつなげる
前回の記事では、赤ちゃんが「見る」「触る」「なめる」といった感覚を結びつけながら、物の形や特徴を理解していくことをお伝えしました。
今回はその続きとして、視覚と聴覚の対応づけについて考えていきます。
赤ちゃんは、声だけを聞いているわけではありません。
話している人の口の動き、表情、目線、声の調子を一緒に受け取りながら、「人の声」や「言葉」の世界を少しずつ学んでいきます。
※前回の記事です。異種感覚の統合 赤ちゃんは「触る」と「見る」をつなげて世界を知る
目次
- 赤ちゃんは声だけでなく、顔の動きも見ている
- 視覚と聴覚の対応づけとは何か
- 口の動きと声は結びついている
- 音声と口形の対応づけは少しずつ育つ
- 表情や声の調子も大切な情報になる
- 成長とともに、複数の感覚を組み合わせられるようになる
- 育児や保育で大切にしたい関わり
- まとめ:赤ちゃんは「見て聞く」中で人と言葉を学んでいる
赤ちゃんは声だけでなく、顔の動きも見ている
大人が誰かの話を聞くとき、実は耳だけを使っているわけではありません。
相手の口の動き。
表情。
目線。
うなずき。
声の高さ。
話す速さ。
雰囲気。
こうした情報を合わせて、「何を伝えようとしているのか」を受け取っています。
赤ちゃんも同じです。
もちろん、赤ちゃんはまだ言葉の意味を大人のように理解しているわけではありません。
それでも、話しかけてくれる人の顔や口元、声の調子には敏感に反応します。
赤ちゃんが保護者の顔をじっと見る。
口元を見つめる。
声に合わせて表情を変える。
話しかけられると手足を動かす。
笑顔に笑顔で返す。
こうした姿は、赤ちゃんが「見える情報」と「聞こえる情報」を一緒に受け取っていることを感じさせます。
※関連記事です。赤ちゃんの顔の認識 視力が低くても、顔には敏感に反応する
視覚と聴覚の対応づけとは何か
視覚と聴覚の対応づけとは、簡単に言えば、見えているものと聞こえている音を結びつけることです。
たとえば、大人が赤ちゃんに向かって「ばあ」と言うとします。
赤ちゃんは、そのときに、
口が開く。
顔が近づく。
声が聞こえる。
表情が変わる。
楽しい雰囲気がある。
こうした情報を一緒に受け取ります。
つまり、「声だけ」ではなく、「その声を出している人の顔や動き」と一緒に経験しているのです。
このような経験が積み重なることで、赤ちゃんは少しずつ、
「この口の動きと、この声は関係している」
「この人が話している」
「声は人から出ている」
「表情と声の調子にはつながりがある」
といったことを学んでいきます。
参考(WILEYonline)乳児研究では、生後2か月ごろの赤ちゃんでも、唇の動きと声に含まれる音声情報を対応づける力があることが示されています。生後2ヶ月の乳児は唇と声で音韻情報を一致させる
口の動きと声は結びついている
話すとき、私たちの口は音に合わせて動いています。
「あ」と言うとき。
「い」と言うとき。
「う」と言うとき。
「ま」と言うとき。
「ぱ」と言うとき。
口の形や唇の動きは少しずつ違います。
赤ちゃんは、こうした口の動きと聞こえる音の関係を、少しずつ経験していきます。
たとえば、保護者が赤ちゃんに向かって、
「まんま」
「ばいばい」
「ねんね」
「だっこ」
「おいしいね」
と声をかけるとき、赤ちゃんは声だけでなく、口の形や表情も見ています。
とくに、ゆっくり、はっきり、表情豊かに話しかけると、赤ちゃんにとっては「見える言葉」と「聞こえる言葉」が結びつきやすくなります。
これは、言葉を早く教え込むという意味ではありません。
赤ちゃんが安心できるやり取りの中で、人の声や口の動きに親しんでいくことが大切なのです。
音声と口形の対応づけは少しずつ育つ
音声と口形の対応づけは、成長の中で少しずつ育っていきます。
研究では、乳児がかなり早い時期から、口の動きと音の関係に敏感であることが示されています。
一方で、話している人の口元により注目しやすくなる時期は、生後8か月ごろから目立ってくるとされています。
これは、赤ちゃんが言葉を学ぶ準備を進めている時期とも重なります。
この頃になると、赤ちゃんは大人の声をただ聞くだけでなく、
「どの口の動きから、どんな音が出ているのか」
「この人は何かを話している」
「声と表情には関係がある」
といったことに、より注意を向けていきます。
もちろん、発達には個人差があります。
大切なのは、「何か月だからできなければいけない」と考えることではありません。
赤ちゃんが、見て、聞いて、感じる経験を重ねながら、少しずつ人の声や言葉の世界に入っていくことです。
表情や声の調子も大切な情報になる
視覚と聴覚の統合は、口の形と音だけではありません。
表情と声の調子も、赤ちゃんにとって大切な情報です。
やさしい声。
明るい声。
ゆっくりした声。
驚いた声。
笑顔。
困った顔。
うれしそうな表情。
赤ちゃんは、こうした情報を組み合わせながら、人との関わりを学んでいきます。
たとえば、保護者が笑顔で「おはよう」と声をかける。
赤ちゃんが顔を見て、声を聞く。
安心した表情を見せる。
このようなやり取りの中で、赤ちゃんは「この声は安心できる」「この表情はうれしそう」といった感覚を少しずつ育てていきます。
言葉の意味がまだ分からなくても、声と表情の組み合わせから伝わるものはたくさんあります。

成長とともに、複数の感覚を組み合わせられるようになる
赤ちゃんは成長するにつれて、さまざまな感覚をより豊かに組み合わせられるようになります。
見る。
聞く。
触る。
動く。
表情を見る。
声を聞く。
口元を見る。
まねをする。
こうした経験が重なることで、赤ちゃんの理解は深まっていきます。
たとえば、手遊び歌はとても分かりやすい例です。
大人の声を聞く。
手の動きを見る。
リズムを感じる。
まねしようとする。
楽しい雰囲気を感じる。
ここには、視覚、聴覚、運動、感情のやり取りが含まれています。
絵本の読み聞かせも同じです。
絵を見る。
声を聞く。
ページをめくる動きを見る。
登場人物の表情を見る。
大人の声色を聞く。
このように、日常の関わりの中には、感覚を結びつける経験がたくさんあります。
育児や保育で大切にしたい関わり
育児や保育では、赤ちゃんにさまざまな感覚から働きかけることが大切です。
ただし、それは強い刺激をたくさん与えるという意味ではありません。
赤ちゃんが安心して受け取れる範囲で、見て、聞いて、感じられる関わりをつくることです。
たとえば、
顔を見ながら話しかける。
ゆっくり口を動かして声をかける。
赤ちゃんの反応を待つ。
笑顔や表情を返す。
手遊びや歌を取り入れる。
絵本を見せながら声を添える。
赤ちゃんの声や表情に応える。
こうした関わりは、赤ちゃんにとって大切な学びになります。
大人が一方的にたくさん話すよりも、赤ちゃんの反応を見ながら、やり取りをすることが大切です。
赤ちゃんが見ている。
声を出す。
表情を変える。
手足を動かす。
少し間を置く。
大人が応える。
このやり取りの中で、赤ちゃんは「自分の反応に応えてくれる人がいる」と感じます。
そして、見えるものと聞こえるもの、人との関わりを少しずつ結びつけていきます。
まとめ:赤ちゃんは「見て聞く」中で人と言葉を学んでいる
前回の記事では、赤ちゃんが見る、触る、なめる経験を通して、視覚と触覚を結びつけていくことをお伝えしました。
今回は、視覚と聴覚の対応づけについて見てきました。
赤ちゃんは、声だけを聞いているわけではありません。
話している人の口の動き、表情、目線、声の調子を一緒に受け取っています。
口の動きと音声の対応づけは、成長の中で少しずつ育っていきます。
とくに生後8か月ごろからは、話している人の口元に注目しやすくなる時期とも言われています。
赤ちゃんにとって、人の声はただの音ではありません。
顔や表情、口の動きと結びついた、人との関わりの中にあるものです。
だからこそ、育児や保育では、赤ちゃんにさまざまな感覚からやさしく働きかけることが大切です。
顔を見て話す。
声をかける。
表情を返す。
手遊びをする。
絵本を読む。
赤ちゃんの反応を待つ。
こうした日々の関わりが、赤ちゃんの発達を支える大切な経験になります。
赤ちゃんは、見て、聞いて、人と関わりながら、少しずつ言葉と世界を学んでいきます。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)