異種感覚の統合 赤ちゃんは「触る」と「見る」をつなげて世界を知る
赤ちゃんは、目で見るだけで世界を理解しているわけではありません。
口でなめる、手で触る、握る、動かす、見比べる。
こうしたさまざまな感覚を結びつけながら、少しずつ「これはどんなものか」を知っていきます。
※赤ちゃんの視覚に関連する記事はこちらをご覧ください。乳児の空間の認識 赤ちゃんには世界がどう見えているのか 奥行きの知覚 赤ちゃんはどうやって立体的な世界を知るのか
目次
- 赤ちゃんは感覚を組み合わせて世界を知る
- 触って形を感じ取るということ
- 異種感覚の統合とは何か
- メルツォフとボートンのおしゃぶり実験
- 口で感じた形を、目でも分かるという力
- 見た目と手触りも少しずつつながっていく
- 物をなめる行為にも発達の意味がある
- 大人ができる見守り方
- まとめ:赤ちゃんは体全体で学んでいる
赤ちゃんは感覚を組み合わせて世界を知る
大人は、物を見ただけで、ある程度その手触りを想像できます。
ぬいぐるみを見れば、やわらかそうだと感じます。
積み木を見れば、かたそうだと分かります。
氷を見れば、冷たそうだと思います。
トゲトゲしたものを見れば、触ると痛そうだと判断できます。
これは、私たちがこれまでの経験の中で、視覚と触覚を結びつけてきたからです。
「見た感じ」と「触った感じ」が、頭の中でつながっているのです。
赤ちゃんも、少しずつこの力を育てていきます。
見る。
触る。
なめる。
握る。
動かす。
口に入れる。
もう一度見る。
こうした経験を通して、赤ちゃんは物の形や質感を理解していきます。
触って形を感じ取るということ
人は、手で触ることで多くの情報を得ています。
丸い。
四角い。
かたい。
やわらかい。
ざらざらしている。
つるつるしている。
重い。
軽い。
大きい。
小さい。
こうした情報は、目で見るだけでは分からないこともあります。
たとえば、同じように見えるボールでも、触ってみると、やわらかいものもあれば、かたいものもあります。
見た目は似ていても、重さや温度、質感が違うこともあります。
赤ちゃんにとって、触ることはとても大切な探索です。
特に乳児期には、手だけでなく、口も大切な感覚器官です。
赤ちゃんが物をなめたり、口に入れたりするのは、ただ遊んでいるだけではありません。
口の中で形や感触を確かめながら、その物がどんなものかを知ろうとしているのです。
異種感覚の統合とは何か
異種感覚の統合とは、簡単に言えば、違う種類の感覚を脳の中で結びつけることです。
目で見る視覚。
手や口で感じる触覚。
耳で聞く聴覚。
鼻で感じる嗅覚。
体の動きや姿勢を感じる感覚。
私たちは、こうした感覚を別々に使っているだけではありません。
たとえば、目の前でガラガラを振ると、赤ちゃんは動きと音を一緒に受け取ります。
積み木を持つと、形と重さと手触りを一緒に感じます。
保護者の顔を見ると、声や表情、抱っこの感覚も一緒に結びついていきます。
このように、複数の感覚が結びつくことで、子どもは物や人をより深く理解していきます。
メルツォフとボートンのおしゃぶり実験
異種感覚の統合を考えるうえで有名なのが、メルツォフとボートンのおしゃぶり実験です。
この研究では、生後およそ1か月の赤ちゃんに、形の違うおしゃぶりを口に入れてもらいました。
一つは、表面がなめらかなおしゃぶり。
もう一つは、表面にでこぼこがあるおしゃぶりです。
赤ちゃんは、そのおしゃぶりを目で見ていません。
口の中の感覚だけで、形や表面の違いを感じています。
その後、赤ちゃんに2つのおしゃぶりを見せると、口で感じたものと対応する方を長く見る傾向が示されました。
つまり、赤ちゃんは「口で感じた形」を、あとから「目で見る形」と結びつけていたと考えられます。
これはとても大切なことです。
赤ちゃんは、ただ口に入れているだけではありません。
口で得た感覚の情報を、視覚の情報ともつなげながら、物を理解しようとしているのです。
※参考(Nature) ヒト新生児による異種間マッチング

口で感じた形を、目でも分かるという力
この実験から分かるのは、赤ちゃんには早い時期から、感覚同士を結びつける力があるということです。
口で感じた「でこぼこ」。
口で感じた「なめらか」。
その感覚を、あとから見た形と対応づける。
これは、大人にとっては当たり前に思えるかもしれません。
しかし、生後1か月ほどの赤ちゃんがこのような対応づけをしていると考えると、赤ちゃんの世界の受け取り方はとても豊かです。
赤ちゃんは、視覚だけで物を知っているわけではありません。
触覚だけで物を知っているわけでもありません。
さまざまな感覚をつなげながら、「これはこういうものだ」と少しずつ理解しているのです。
見た目と手触りも少しずつつながっていく
成長とともに、赤ちゃんは手でも物をよく探索するようになります。
手を伸ばす。
握る。
持ち替える。
たたく。
落とす。
なめる。
見比べる。
こうした行動の中で、見た目と手触りの対応づけが進んでいきます。
生後2〜3か月ごろからは、見た情報と触った情報を結びつける力がさらに発達していくと考えられています。
たとえば、赤ちゃんは目で見た形を手で確かめようとします。
手で触ったものを、あとから目で見て確認することもあります。
このように、視覚と触覚は別々に働いているのではなく、少しずつ連携していきます。
見た目から手触りを想像する。
触った感覚から見た形を思い出す。
目で見て、手で確かめる。
こうした経験が、物体の認識を深めていきます。
物をなめる行為にも発達の意味がある
赤ちゃんが物を手に取り、なめる姿を見ると、大人はつい心配になります。
「また口に入れている」
「汚いからやめてほしい」
「何でもなめて困る」
もちろん、安全や衛生面には注意が必要です。
小さすぎる物、誤飲の危険がある物、汚れた物、危ない素材の物は、赤ちゃんの手の届かないところに置く必要があります。
ただし、赤ちゃんが物をなめる行為そのものには、発達上の意味があります。
赤ちゃんは、口で形や質感を確かめています。
目で見たものを、口や手の感覚で確認しています。
視覚と触覚を対応づけながら、対象を深く知ろうとしています。
つまり、物をなめることは、赤ちゃんにとって大切な探索です。
「なめているから困った行動」と見るだけではなく、
「今、この子は物を知ろうとしているのだな」
と考えることも大切です。
赤ちゃんにとって口は、小さな研究室のようなものです。
ただし、その研究室には安全管理責任者として大人が必要です。
大人ができる見守り方
大人ができることは、赤ちゃんの探索を止めることだけではありません。
大切なのは、安全な環境を整えたうえで、赤ちゃんが見て、触って、確かめられる機会をつくることです。
たとえば、
安全な歯固めを用意する。
大きめで誤飲しにくいおもちゃを選ぶ。
手触りの違う布やぬいぐるみに触れられるようにする。
ざらざら、つるつる、ふわふわなど、違う感触に出会えるようにする。
赤ちゃんが見ているものを一緒に見て、「丸いね」「やわらかいね」と声をかける。
こうした関わりで十分です。
大切なのは、たくさんの刺激を一度に与えることではありません。
赤ちゃんが安心して探索できること。
安全な物を、ゆっくり見て、触って、確かめられること。
大人がそばで見守っていること。
その中で、赤ちゃんは感覚を結びつけながら学んでいきます。
まとめ:赤ちゃんは体全体で学んでいる
赤ちゃんは、目だけで世界を知っているわけではありません。
手で触る。
口でなめる。
握る。
動かす。
見る。
もう一度触る。
こうした経験を通して、さまざまな感覚を結びつけながら物を理解していきます。
異種感覚の統合とは、視覚、触覚、聴覚などの違う感覚を脳の中で結びつけ、対象をより深く認識する力です。
生後早い時期から、赤ちゃんは口で感じた形を視覚情報と対応づける力を示します。
成長とともに、見た目と手触りの関係も少しずつ豊かになっていきます。
だからこそ、赤ちゃんが物をなめること、触ること、手に取って確かめることには意味があります。
もちろん、安全と衛生は大切です。
しかし、探索そのものを悪いことと考えすぎる必要はありません。
赤ちゃんは、体全体を使って世界を学んでいます。
大人はその姿を見守りながら、安全に探索できる環境を整えていきたいものです。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)