ストーリーテリング 子どもの想像力と言葉を育てる「語り」の時間
幼児教育の中で大切にしたい活動の一つに、ストーリーテリングがあります。
ストーリーテリングとは、絵本や紙芝居を見せながら読むのではなく、語り手が物語を覚え、言葉だけで子どもたちにお話を届ける活動です。
日本では、昔から昔話や民話が「語り」によって伝えられてきました。
「むかしむかし、あるところに……」
このような言葉から始まるお話を、大人から子どもへ、また次の世代へと伝えてきた文化があります。
ストーリーテリングは、そうした昔話の口伝えに近いものです。
絵本との違い
絵本の読み聞かせでは、子どもは絵を見ながら物語を楽しみます。
絵があることで、登場人物の表情や場所の様子が分かりやすく、子どもにとって安心して物語に入りやすいというよさがあります。
一方、ストーリーテリングでは、絵はありません。
子どもは、語り手の声や言葉を聞きながら、自分の頭の中で情景を思い描いていきます。
森の中の道、家の中の様子、登場人物の顔、動物の動き。
それらを、子ども自身が想像しながらお話を楽しむのです。
ここが、絵本とは大きく違うところです。
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文字が読めない子どもでも楽しめる
ストーリーテリングは、まだ文字が読めない子どもでも楽しむことができます。
むしろ、文字を読む前の時期の子どもにとって、耳から言葉を聞き、物語の世界を味わう経験はとても大切です。
子どもは、言葉の意味を一つひとつ完全に理解していなくても、声の調子、間の取り方、繰り返しの言葉、物語の流れを感じながら楽しむことができます。
「次はどうなるのかな」
「この人はどこへ行くのかな」
「こわいけれど、続きが気になる」
そのように、耳から入る言葉を手がかりにして、物語の世界へ入っていきます。
想像する力を養う
ストーリーテリングの大きな魅力は、子どもの想像力を育てることです。
絵がないからこそ、子どもは自分の中で情景を作り出します。
たとえば、「大きな森」と聞いたとき、子どもによって思い浮かべる森は違います。
暗くて少しこわい森を思い浮かべる子もいれば、鳥が鳴いている明るい森を思い浮かべる子もいるかもしれません。
同じ言葉を聞いていても、頭の中に描く世界は一人ひとり違います。
この「自分で思い描く」という経験が、子どもの想像力を豊かにしていきます。
物語を聞きながら、場面を想像し、登場人物の気持ちを考え、次の展開を予想する。
こうした経験は、子どもの考える力や心の育ちにもつながっていきます。
豊かな言葉にふれる時間
ストーリーテリングでは、子どもはたくさんの言葉に出会います。
日常会話ではあまり使わない表現、昔話ならではの言い回し、心の動きを表す言葉、場面を描く言葉。
そうした言葉を耳から聞くことで、子どもは自然に語彙を増やしていきます。
また、語り手の声の強弱やリズム、間の取り方にふれることで、言葉の表現の豊かさも感じ取ることができます。
ただ言葉を覚えるだけではありません。
「楽しい言い方」
「こわい感じの声」
「やさしい響き」
「不思議な雰囲気」
このように、言葉が持つ表情を体験することができます。
その積み重ねが、子どもの語彙力や表現力を育てる土台になっていきます。
聞く力も育つ
ストーリーテリングは、聞く力を育てる活動でもあります。
絵や文字に頼らず、語り手の言葉を聞きながら物語を追っていくため、子どもは自然と耳を傾けるようになります。
最初は短いお話からでかまいません。
少しずつ、語りを聞く時間に慣れていくことで、集中して話を聞く力も育っていきます。
これは、小学校以降の学習にもつながる大切な力です。
先生の話を聞く、説明を理解する、物語文を読む、相手の気持ちを想像する。
そうした力の土台にも、幼児期の「聞く経験」が関わっています。
ストーリーテリングは心に残る体験
ストーリーテリングは、特別な道具がなくてもできる活動です。
必要なのは、語り手の声と、子どもが耳を傾ける時間です。
絵本のように絵で楽しむよさもあれば、ストーリーテリングのように言葉だけで想像するよさもあります。
どちらが優れているということではなく、それぞれに大切な役割があります。
ストーリーテリングは、子どもが耳から言葉を受け取り、自分の中で物語の世界を広げていく時間です。
その中で、想像する力、聞く力、語彙力、表現力が少しずつ育っていきます。
昔話や物語を聞く時間は、子どもにとってただ楽しいだけではありません。
言葉と心を育てる、豊かな学びの時間でもあるのです。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)