モンテッソーリ教育の原点「子どもの家」とは?
モンテッソーリ教育について調べていると、「子どもの家」という言葉を目にすることがあります。
一般的な子どもの住居を意味する言葉のように聞こえますが、モンテッソーリ教育における「子どもの家」は、子どもが自分で活動を選び、生活や遊びを通して成長していくための教育環境です。
そこでは、大人が一方的に知識を教えるのではなく、子ども自身の「やってみたい」「知りたい」という気持ちを大切にします。
今回は、子どもの家がどのように始まり、どのような活動が行われているのか、その教育的な意義についてご紹介します。
目次
- 「子どもの家」はどのように始まったのか
- 子どもが主人公になる環境
- 感覚教具を使った学び
- モンテッソーリ教育の5つの分野
- 「子どもの家」が持つ教育的な意義
- モンテッソーリ・メソッドへ
1.「子どもの家」はどのように始まったのか
「子どもの家」は、イタリアの医師であり教育者でもあったマリア・モンテッソーリによって始められました。
最初の「子どもの家」は、1907年1月6日、イタリア・ローマのサン・ロレンツォ地区に開設されました。イタリア語では「カーサ・デイ・バンビーニ(Casa dei Bambini)」と呼ばれ、直訳すると「子どもたちの家」という意味になります。
モンテッソーリは、子どもたちの行動を注意深く観察しました。
すると、子どもは大人から常に指示されなくても、興味を持った活動に自分から取り組み、何度も繰り返しながら集中していくことが分かってきました。
大人が適切な環境を用意すれば、子どもはその環境に自ら働きかけ、自分の力で成長していく。
「子どもの家」は、こうした子どもの姿を観察し、モンテッソーリ教育の考え方を実践していく場所となりました。
参考(AMI)マリア・モンテッソーリの生涯年表
2.子どもが主人公になる環境
子どもの家の大きな特徴は、子どもが活動の主人公であることです。
保育室には、子どもの体の大きさに合った机や椅子、棚などが置かれています。教材や教具も、子ども自身が見て選び、手に取れるように整理されています。
子どもは、自分が興味を持った活動を選び、自分のペースで取り組みます。
大人が全員に同じ活動をさせるのではなく、一人ひとりの興味や発達段階を尊重することが大切にされているのです。
ただし、子どもを自由に放っておくということではありません。
大人は子どもの様子をよく観察し、必要に応じて教具の使い方を示したり、活動しやすい環境を整えたりします。
教え込みすぎず、何もしなさすぎない。
子どもが自分でできるようになるために、必要な手助けを行うことが大人の役割です。
3.感覚教具を使った学び
子どもの家では、さまざまなモンテッソーリ教具が使われます。
なかでも特徴的なのが、見る、触る、聞く、嗅ぐ、味わうといった感覚を働かせる「感覚教具」です。
幼児期の子どもは、言葉だけで説明を聞くよりも、実際に物に触れ、自分の手を動かすことで多くのことを理解します。
感覚教具には、大きさ、長さ、太さ、色、形、重さ、音などの違いを比べるものがあります。
たとえば、少しずつ大きさの異なる物を順番に並べたり、同じ色や形の物を組み合わせたりします。
こうした活動を通して、子どもは物の違いや共通点に気づき、周囲の世界を整理して捉えられるようになります。
教具には、子どもが自分で間違いに気づき、やり直せるように工夫されているものもあります。
大人からすぐに正解を教えてもらうのではなく、自分で確かめ、考え、試すことが、子どもの自立した学びにつながります。
4.モンテッソーリ教育の5つの分野
3歳から6歳頃のモンテッソーリ教育は、主に次の5つの分野によって構成されています。
日常生活の練習
日常生活の練習では、水を注ぐ、物を運ぶ、ボタンを留める、掃除をする、植物の世話をするといった、生活に関わる活動を行います。
子どもは、大人が普段行っていることをまねしたがります。
その気持ちを活かしながら手や体を動かすことで、動作を調整する力や集中力、自分のことを自分で行う力を身につけていきます。
感覚教育
感覚教育では、色、形、大きさ、長さ、音、重さ、手触りなどの違いを、感覚教具を使って学びます。
自分の感覚を使って比べたり、分類したりする経験は、物事を観察し、整理して考える力につながります。
言語教育
言語教育では、話す、聞く、読む、書くことにつながる活動を行います。
身近な物の名前を知ることや、文字の形を指でなぞること、言葉を組み立てることなどを通して、子どもの言葉への興味を育てます。
一人ひとりの発達に合わせ、具体的な物や手を使った活動から、文字や言葉の理解へと進んでいきます。
算数教育
算数教育では、数の量や順序、数字との関係などを、具体的な教具を使って学びます。
数字をただ暗記するのではなく、実際に物を数えたり、並べたり、触れたりしながら数の意味を理解します。
具体物を使った経験が、やがて頭の中で数を考える抽象的な理解へとつながっていきます。
文化教育
文化教育では、動物、植物、地理、歴史、宇宙、音楽、美術など、子どもを取り巻く幅広い世界を扱います。
子どもの「これは何だろう」「もっと知りたい」という好奇心を出発点として、身近な自然から世界へと興味を広げていきます。
さまざまな地域や生き物、人々の暮らしを知ることは、違いを認め、世界を大切にする心を育てることにもつながります。
5.「子どもの家」が持つ教育的な意義
子どもの家で大切にされているのは、教具を使って知識を身につけることだけではありません。
子どもが自分で活動を選び、繰り返し取り組む中で、集中力や自立心、考える力を育てることにも大きな意味があります。
最初はうまくできなくても、子どもは何度も試します。
そして、自分の力でできたときには、大きな満足感を得ます。
この「自分でできた」という経験は、次の活動に挑戦する意欲や、自分を信じる気持ちにつながります。
また、必要な教具を自分で取り出し、使い終わったら元の場所へ戻すことも、活動の一部です。
自分の行動に責任を持つことや、ほかの人も使う環境を大切にすることを、毎日の生活の中で身につけていきます。
子どもの家は、単に知識を教える教室ではありません。
子どもが自分の体や感覚を使い、自分で選び、考え、行動するための場所なのです。
6.モンテッソーリ・メソッドへ
モンテッソーリは、子どもの家で子どもたちを観察し、その姿から多くのことを学びました。
子どもには、自分で自分を育てようとする力があること。
興味や発達に合った活動には、驚くほど集中すること。
自分で選び、繰り返し取り組むことで、心や行動が整っていくこと。
こうした観察と実践をもとに、モンテッソーリ教育法、いわゆる「モンテッソーリ・メソッド」が形づくられていきました。
その中心にあるのは、大人が子どもを思いどおりに動かすという考えではありません。
子どもが本来持っている成長する力を信じ、その力を発揮できる環境を整えるという考え方です。
「子どもの家」という名前には、大人のためにつくられた場所ではなく、子どもが安心して活動し、自分の力で成長していくための場所という意味が込められています。
現在、モンテッソーリ教育が世界各地で実践されている背景には、この最初の子どもの家で発見された、子どもの学びと成長の姿があるのです。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)