レディネスとは?子どもの「学ぶ準備」と幼児教育の関係
子どもに何かを教えたとき、すぐにできるようになることもあれば、何度教えてもうまくいかないことがあります。
しかし、その違いは、子どもの能力や努力だけで決まるものではありません。
その学習に必要な心や体、知識、経験などの準備が整っているかどうかも、大きく関係しています。
このような、学習を始めるための準備が整った状態を「レディネス」といいます。
今回は、レディネスの意味や具体例、学習優位説と成熟優位説の違い、幼児教育で大切にしたい考え方について、分かりやすくご紹介します。
目次
- レディネスとは
- 子どものレディネスの具体例
- 学習優位説とは
- 早期教育と学習優位説
- 成熟優位説とは
- 成熟優位説を唱えたゲゼル
- 現在は学習と成熟の両方を考える
- 幼児教育で大切にしたいレディネス
レディネスとは
レディネスは、英語の「readiness」に由来し、日本語では「準備性」と訳されます。
教育におけるレディネスとは、子どもが新しいことを学ぶために必要な心身の発達、知識、経験、興味などが整っている状態を指します。
例えば、文字を書くためには、文字の形を知るだけでは十分ではありません。
鉛筆を持つ手の力、線を見ながら手を動かす力、姿勢を保つ力、ことばへの興味など、さまざまな準備が必要です。
つまり、レディネスとは単に「その年齢になった」ということではなく、その学習に取り組める土台が整っているかどうかを表す言葉です。
子どものレディネスの具体例
レディネスは、子どもの生活や遊びのさまざまな場面に関係しています。
文字を書くためのレディネス
文字を書くためには、手や指を細かく動かす力が必要です。
積み木、粘土、ひも通し、お絵描きなどを楽しむ経験は、鉛筆を使うための土台になります。
また、書きことばを理解する前には、人の話を聞き、自分の考えを話す経験を十分に積むことも大切です。話しことばの発達は、書きことばを学ぶためのレディネスの一つと考えられます。
はさみを使うためのレディネス
はさみを使うためには、指を別々に動かす力や、片方の手で紙を押さえながら、もう一方の手を動かす力が必要です。
まだ手や指の操作が十分に育っていない子どもに、何度も「上手に切りなさい」と伝えても、すぐには難しいことがあります。
その前に、紙をちぎる、洗濯ばさみをつまむ、粘土を丸めるなどの遊びを取り入れると、必要な力を自然に育てられます。
数を学ぶためのレディネス
数字を暗唱できることと、数の意味を理解していることは同じではありません。
「お皿を一人に一枚ずつ配る」「三つのお菓子を分ける」といった経験を通して、子どもは数と実際の量を結びつけていきます。
日常生活の中で量や順番に触れる経験が、足し算や引き算を学ぶ前のレディネスになります。
学習優位説とは
子どもの発達を考えるうえでは、かつて「学習」と「成熟」のどちらを重視するかという二つの考え方がありました。
学習優位説とは、子どもの能力や行動は、教育、練習、経験などの外からの働きかけによって大きく伸ばせると考える立場です。
この考え方では、
「早くから教えれば、その分だけ早くできるようになる」
「繰り返し練習すれば、能力を高められる」
といったように、環境や教育の影響を重視します。
もちろん、子どもは経験や練習を通して多くのことを学びます。
大人が適切な環境を用意し、子どもの興味に応じて働きかけることは、発達を支えるうえで欠かせません。
早期教育と学習優位説
文字、計算、英語、楽器などを幼い頃から教える早期教育は、学習優位説の考え方が表れやすい例です。
「早く始めるほど有利になる」と考え、幼児期から繰り返し知識や技能を教える方法は、学習によって発達を促そうとするものだからです。
ただし、早期教育そのものがすべて問題というわけではありません。
子どもが興味を持ち、遊びとして楽しみながら取り組んでいるのであれば、豊かな経験になることもあります。
注意したいのは、子どものレディネスを考えず、年齢や周囲との比較だけを理由に学習を急がせることです。
まだ手先の力が育っていない子どもに何度も文字を書かせたり、数の意味が分かっていない段階で計算問題を繰り返させたりすると、学習への苦手意識が強くなる可能性があります。
大切なのは、単に早く始めることではなく、その子どもが何に興味を持ち、今どのような経験を必要としているかを見ることです。
成熟優位説とは
学習優位説に対して、子どもの内側から進む心身の成長を重視するのが成熟優位説です。
ここでいう成熟とは、身長や体重が増えることだけではありません。
脳や神経、筋肉、感覚、認知などが、子ども自身の発達の流れに沿って育っていくことを意味します。
成熟優位説では、十分な成熟が進んでいない段階で無理に教えても、学習の効果は得られにくいと考えます。
例えば、子どもが歩き始める前に、何度も立たせる練習をすれば、すぐに歩けるようになるとは限りません。
体を支える筋肉や神経の働き、バランス感覚などが育って初めて、歩くための準備が整います。
学習にも同じように、適した時期や発達上の準備があるという考え方です。
成熟優位説を唱えたゲゼル
成熟優位説を代表する人物が、アメリカの心理学者・小児科医であるアーノルド・ゲゼルです。
ゲゼルは、子どもの運動、ことば、行動などを長期間にわたって観察し、発達には一定の順序があることを研究しました。
子どもによって発達する速さには違いがあっても、首がすわる、座る、立つ、歩くといった発達には、おおむね共通する順序が見られます。
ゲゼルは、こうした発達の基本的な流れには、体や神経系の成熟が大きく関係していると考えました。
ただし、ゲゼルが環境の影響をまったく否定していたわけではありません。
近年の研究では、ゲゼルの成熟理論について、遺伝と環境を完全に切り離すものではなく、両者の相互作用も考えていたと説明されています。
参考(ゲゼル・プログラム)ゲゼル理論
現在は学習と成熟の両方を考える
現在の発達や幼児教育では、学習優位説と成熟優位説のどちらか一方だけで、子どもの成長を説明することは難しいと考えられています。
子どもの発達には、生まれ持った特徴や心身の成熟だけでなく、周囲の大人との関係、遊び、生活環境、文化、教育なども関係します。
子どもに十分なレディネスがあっても、経験する機会がなければ、力を発揮できないことがあります。
反対に、どれほど多くの練習をしても、その学習に必要な心身の準備が整っていなければ、無理が生じます。
つまり、成熟を待つだけでも、練習を重ねるだけでも十分ではありません。
子どもの発達の状態を見ながら、適切な経験や環境を用意することが大切です。
幼児教育で大切にしたいレディネス
幼児教育におけるレディネスは、「小学校の勉強を先に教えておくこと」だけを意味しません。
幼児期は、遊びを通して、小学校以降の学習や生活につながる基礎を育てる時期です。文部科学省も、幼児期の教育では遊びを通して学習の基盤となる芽生えを培い、小学校へつなげていくことを重視しています。
例えば、幼児期には次のような力が、将来の学びを支えるレディネスになります。
- 自分の興味を持って遊ぶ力
- 人の話を聞く力
- 自分の気持ちや考えを伝える力
- 失敗しても再び試す力
- 手や体を目的に合わせて動かす力
- 友達と関わり、順番や約束を理解する力
- 分からないことを知りたいと思う気持ち
こうした力は、プリント学習だけで育つものではありません。
積み木、絵本、ごっこ遊び、外遊び、工作、大人との会話など、毎日の生活や遊びの中で少しずつ育っていきます。
また、レディネスは、子どもだけに求めるものでもありません。
「子どもが学校へ合わせる準備をする」という見方だけでなく、大人や教育環境の側が、一人ひとりの発達や興味に合わせて学べる準備を整えることも重要です。
子どもの「今」を見て学びを支える
レディネスを考えるうえで大切なのは、同じ年齢の子どもと比べて、早いか遅いかを判断することではありません。
「今、この子にはどのような力が育っているのか」
「何に興味を持っているのか」
「次の学びにつながる、どのような経験を用意できるのか」
という視点で子どもを見ることです。
まだ準備が整っていないことを無理に教える必要はありません。
一方で、「いつか自然にできるようになる」と何もせずに待つだけでもなく、子どもが楽しめる遊びや体験を通して、必要な力を支えていくことが大切です。
レディネスとは、子どもの可能性に限界を設けるための言葉ではありません。
一人ひとりに合った時期と方法を見つけ、子どもが「やってみたい」「分かった」「できた」と感じられる学びにつなげるための、大切な考え方なのです。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)