コダーイ・システムとは?わらべうたから始める子どもの音楽教育
子どもが楽しそうに歌いながら、手を動かしたり、友達と輪になって遊んだりする「わらべうた」。
一見すると昔ながらの素朴な遊びですが、わらべうたには、子どもの音感やリズム感だけでなく、ことば、人との関わり、想像力などを育てる多くの要素が含まれています。
このような、その国に伝わる歌を音楽教育の出発点として重視したのが、ハンガリーの作曲家、ゾルターン・コダーイです。
今回は、コダーイが提唱した音楽教育の考え方である「コダーイ・システム」と、わらべうたの重要性について、分かりやすくご紹介します。
目次
- コダーイとは
- コダーイ・システムとは
- 歌うことを大切にする音楽教育
- コダーイ・システムとわらべうた
- わらべうたが子どもに与えるもの
- わらべうたと「ことばの教育」
- 家庭でわらべうたを取り入れるには
コダーイとは
ゾルターン・コダーイは、1882年にハンガリーで生まれた作曲家です。
作曲家として活動するだけでなく、民族音楽学者、音楽教育者としても大きな功績を残しました。
コダーイは、同じくハンガリーを代表する作曲家であるベーラ・バルトークとともに、各地を訪れて民謡を収集しました。人々が日常生活の中で歌い継いできた歌を記録し、その旋律やリズム、ことばについて研究したのです。
当時、ハンガリーの学校で行われていた音楽教育は、必ずしも子どもたちにとって身近なものではありませんでした。
そこでコダーイは、一部の音楽家だけではなく、すべての人が質の高い音楽に触れられる教育が必要だと考えます。
音楽は特別な才能を持つ人だけのものではなく、すべての子どもの成長に関わる大切な文化であるというのが、コダーイの基本的な考え方でした。
コダーイ・システムとは
コダーイ・システムとは、コダーイの音楽教育に対する理念をもとに発展した教育方法です。
「コダーイ・メソッド」や「コダーイ・コンセプト」と呼ばれることもあります。
ただし、コダーイ自身が決まった授業手順や一つの教材を完成させ、それをそのまま世界に広めたわけではありません。
コダーイが示した音楽教育の理念をもとに、後の教育者や研究者たちが、歌、遊び、リズム、音階、読譜などの指導方法を体系化していきました。
そのため、厳密には一つの固定された「方法」というよりも、子どもがどのように音楽と出会い、音楽的な力を育てていくのかを示した教育上の考え方といえます。
日本では、保育や発達支援の場でも取り入れられているため、音楽を通した療育的な方法として紹介されることもあります。
しかし、本来のコダーイ・システムは、特定の障害や課題を改善するための治療法ではなく、すべての子どもを対象とした音楽教育の理念です。
音楽を通して、感性や表現力、人との関わりなどを育てる点で、療育にもつながる要素を持っていると考えると分かりやすいでしょう。
歌うことを大切にする音楽教育
コダーイ・システムの大きな特徴は、楽器を演奏する前に、まず自分の声で歌うことを大切にしている点です。
声は、特別な道具を用意しなくても、誰もが持っている身近な楽器です。
子どもは歌うことによって、音の高さや長さ、強弱、リズムなどを体で感じ取ります。
また、音を耳で聞き、それを声で再現する経験を繰り返すことで、頭の中で音を思い浮かべる「内的聴覚」も育っていきます。
コダーイの音楽教育では、次のような活動が重視されています。
- 子ども自身が声を出して歌う
- 歌に合わせて体を動かす
- 拍やリズムを手拍子で表現する
- 音の高低を手の動きで表す
- 音を聞き分け、まねをする
- 簡単な音から段階的に楽譜へつなげる
- 一人だけでなく、友達と一緒に歌う
耳、声、目、体を一緒に使いながら、音楽を感覚的に体験し、少しずつ意識的な理解へとつなげていくのです。
コダーイの理念では、音楽は知識を一方的に教え込むものではありません。
子どもが歌や遊びを楽しみ、音楽を自分のものとして感じる経験が、教育の出発点になります。
コダーイ・システムとわらべうた
コダーイ・システムでは、その国や地域に古くから伝わる民謡や子どもの歌を「音楽的な母語」として大切にします。
子どもがことばを学ぶとき、最初から外国語や難しい文章を使うのではなく、身近な大人が話すことばを聞きながら覚えていきます。
音楽も同じように、まずは自分たちの生活や文化の中で歌い継がれてきた音楽から始めることが自然だと考えたのです。
ハンガリーでは、ハンガリーの民謡や子どもの歌が教材になりました。
この考え方を日本で実践する場合、重要になるのが日本のわらべうたです。
わらべうたは、大人が子どもの教育のために作った歌とは限りません。
子どもたちが遊びの中で歌い、世代を超えて受け継いできた歌です。日本コダーイ協会も、わらべうたを、子どもたちが遊びながら歌い継いできた民俗音楽として説明しています。
「かごめかごめ」
「あんたがたどこさ」
「ずいずいずっころばし」
「おちゃらかほい」
こうした歌には、日本語特有の響きや抑揚、リズムが含まれています。
子どもは遊びながら歌うことで、日本語の音やリズムを自然に感じ取っていきます。
わらべうたが子どもに与えるもの
わらべうたのよさは、音感やリズム感を育てることだけではありません。
ことばの響きやリズムに親しむ
わらべうたには、同じ音やことばを繰り返す表現が多く使われています。
意味を完全に理解できない年齢の子どもでも、繰り返される音やリズムを楽しみながら、ことばのまとまりを感じ取ることができます。
日本語の抑揚や語感に親しむことは、その後の発語や会話、文章を理解する力にもつながっていきます。
記憶する力を育てる
歌には、ことばと旋律、リズムが一緒に含まれています。
単にことばだけを覚えるよりも、歌や動きと結びつけることで、子どもが記憶しやすくなることがあります。
何度も同じ歌を繰り返すうちに、子どもは次に来ることばや動きを予想するようになります。
人とのやり取りを経験する
わらべうたには、手を合わせる、交代する、相手の動きをまねる、順番を待つといった遊びが多くあります。
そこでは、自分の好きなように動くだけではなく、相手の声や動きをよく見る必要があります。
歌を通して、相手に合わせることや、同じ時間を共有する楽しさを経験できるのです。
体の感覚とことばを結びつける
わらべうたでは、歌いながら手をたたいたり、歩いたり、しゃがんだりします。
音やことばと体の動きが結びつくことで、子どもは拍や速さ、強弱を体全体で感じ取ります。
幼い子どもにとっては、説明を聞いて理解することよりも、実際に動きながら感じることが大切です。
想像力を育てる
わらべうたには、動物、自然、季節、昔の暮らしなど、さまざまなものが登場します。
意味がはっきりしない不思議なことばもありますが、だからこそ、子どもは自由に情景を想像できます。
歌を聞きながら自分なりの世界を思い浮かべることは、絵本の読み聞かせと同じように、想像する力を育てる経験になります。
わらべうたと「ことばの教育」
先日公開したアトム先生の動画「子どものことばの教育について」でも、わらべうたの重要性について触れています。
ことばの教育というと、大人が正しい単語や文章を教えたり、子どもに繰り返し発音させたりすることを想像するかもしれません。
しかし、ことばは、机に向かって覚えるだけのものではありません。
子どもは、大人とのやり取りや遊び、歌、絵本、体の動きなど、さまざまな経験を通してことばを身につけていきます。
わらべうたでは、歌を聞くだけでなく、
- 大人の声に耳を傾ける
- 音や動きをまねる
- 次のことばを予想する
- 相手とタイミングを合わせる
- 歌の中の情景を思い浮かべる
といった経験が自然に生まれます。
わらべうたは、音楽教育であると同時に、ことばやコミュニケーションを育てる遊びでもあるのです。
アトム先生の動画では、わらべうたのほかにも、子どものことばの力を伸ばすために大切な関わり方を紹介しています。
ことばが、コミュニケーションだけでなく、思考力、記憶力、感情の整理、学習の定着にどのように関係しているのかについても、経験と理論の両面から分かりやすく解説しています。
▶ アトム先生の動画「子どものことばの教育について」
https://youtu.be/dp0vcOFU1yE
家庭でわらべうたを取り入れるには
家庭でわらべうたを取り入れるとき、上手に歌う必要はありません。
音程やリズムを間違えないことよりも、大人と子どもが一緒に楽しむことの方が大切です。
例えば、子どもを膝に乗せて歌ったり、手を握ってリズムを取ったりするだけでも、十分なわらべうた遊びになります。
子どもがまだ歌えない場合も、無理に歌わせる必要はありません。
最初は大人の声を聞いたり、動きを見たりするだけでも構いません。同じ歌を何度も楽しむうちに、子どもが一部分だけ声を出したり、動きをまねたりするようになります。
また、歌い終わったあとに、
「楽しかったね」
「速くなったね」
「次はどっちの手かな」
などと話しかければ、音楽体験をことばへと広げることもできます。
コダーイ・システムが教えてくれるのは、音楽教育を特別なレッスンだけにしないことです。
子どもは、身近な人の声を聞き、一緒に歌い、体を動かす中で、音楽を自分のものにしていきます。
昔から歌い継がれてきたわらべうたは、子どもの音楽的な感性だけでなく、ことば、人との関わり、想像力を育てる、豊かな遊びであり教育なのです。
※参考(リスト大学)民族音楽学
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)