子どもの力は「教える側のまなざし」も大事!ーピグマリオン効果
ピグマリオン効果と、幼児教育・子育ての関わり方
前回の記事では、子どもの側の視点から、失敗を経験したときにどう立て直していくか、そしてそのしなやかさをエゴレジリエンスとして考えました。今回はその続きとして、教育を行う側の視点から見ていきます。
子どもが伸びるかどうかは、本人の努力だけで決まるわけではありません。
教える大人がどんな期待を持ち、どんな接し方をするかも、子どもの学びや自信に少なからず影響します。教育心理学では、このテーマを考えるときにピグマリオン効果がよく取り上げられます。これは、教師などの期待が、相手の行動や成果に影響し、結果としてその期待が現実になっていく現象として説明されます。ロバート・ローゼンタールは、この種の対人期待効果を研究した心理学者として知られています。
今回は、
教育におけるピグマリオン効果とは何か、
ローゼンタールはどんな研究をしたのか、
そしてそれがレジリエンスや幼児教育・子育てとどう関わるのかを、保護者の方にも分かりやすい形で整理していきます。近年の研究でも、教師の期待は成績だけでなく、子どもの自己概念や学習への意欲にも関わることが示されています。
参考(Simply Psychology)ピグマリオン効果:定義と例
目次
- 前回の記事とのつながり
- 教育におけるピグマリオン効果とは
- ローゼンタールとはどんな心理学者か
- 有名な実験と、その結果
- ただし、研究はどう受け止めるべきか
- ピグマリオン効果とレジリエンスの関係
- 幼児教育・子育てで大切にしたいこと
前回の記事とのつながり
前回は、子どもが失敗のあとに「どうせ無理」と感じてしまう学習性無力感や、そこから立ち直るしなやかさとしてのエゴレジリエンスを扱いました。あの記事は、いわば子どもの内側に注目した内容でした。
※前回の記事です。 子どもが失敗でやる気をなくすのはなぜか
今回はそこに、もう一つの大切な視点を加えます。
それが、大人の期待や関わり方です。
子どもは、自分だけで自分を見ているわけではありません。
親や先生の表情、声かけ、待ち方、任せ方の中で、少しずつ
「自分はできる子なのか」
「挑戦してよいのか」
「失敗しても見捨てられないのか」
を学んでいきます。ピグマリオン効果は、こうした教える側の期待が、子どもの学びにどう影響するかを考えるための代表的な概念です。

教育におけるピグマリオン効果とは
ピグマリオン効果とは、簡単に言えば、
「この子は伸びる」と期待されることで、実際にその子が伸びやすくなる現象です。
もちろん、期待するだけで急に何でもできるようになる、という魔法の話ではありません。大切なのは、期待が大人の接し方を変えることです。
たとえば、大人がある子に対して
「この子は考える力がある」
「少し時間をかければできるようになる」
と思っていると、自然に次のような関わりが増えやすくなります。
- すぐに答えを言わず、少し待つ
- ていねいに説明する
- 失敗しても見切らずに関わる
- 少し難しい課題も任せてみる
こうした小さな違いが積み重なることで、子どもの側も
「自分はやってみていい」
「考える価値がある」
と感じやすくなります。自己成就的予言の文脈では、期待が相手の行動を通して現実化していく現象として理解されますし、近年の縦断研究でも、教師の期待は子どもの学習への内発的価値づけやできる感覚の変化と関連していました。
※内発的動機と外発的動機についての記事です。子どもの「やる気」はどう育つ?
ローゼンタールとはどんな心理学者か
このテーマで中心になるのが、心理学者のロバート・ローゼンタールです。ローゼンタールは、他者への期待が相手の行動に影響する「対人期待効果」の研究で知られ、教育分野ではレノア・ジェイコブソンとともに行った研究で特に有名になりました。ハーバード大学の追悼記事でも、彼は「人が無意識のうちに期待を伝え、その期待に沿うように相手の行動を誘導しうることを示した」研究者として紹介されています。
教育に関する文脈では、ローゼンタールの名前はしばしばピグマリオン効果とほぼセットで語られます。ですので、教育心理学で「ローゼンタール」と聞いたら、まずは教師の期待が子どもに及ぼす影響を思い浮かべると分かりやすいです。
参考(Harvard GAZETTE)ロバート・ローゼンタール
有名な実験と、その結果
1965年、公立小学校で行われたこの研究では、教師たちに「ある子どもたちは今後ぐっと伸びる“growth spurters(成長スパート・最も伸びる時期)”だ」と伝えました。けれど実際には、その子どもたちは無作為に選ばれており、しかも根拠として示された「Harvard Test of Inflected Acquisition」は実在しないものでした。
研究の狙いは、教師の期待が子どもの成績に変化をもたらすかをみることでした。
論文中では、1年後に、全体としては「特別に期待をかけられた」子どもたちのほうが、対照群よりも知能検査の伸びが大きかったと報告されています。特に低学年で効果が大きく、1・2年生でより劇的だったとされています。研究本文では、学校全体では対照群が平均8.42ポイント、期待をかけられた群が平均12.22ポイントの総IQ上昇となり、1年生では +12.0 に対して +27.4、2年生では +7.0 に対して +16.5 という数値が示されています。
研究者たちは、この結果を自己成就的予言の一例として解釈しました。
つまり、教師が「この子は伸びる」と思うことで、言葉や態度や関わり方が変わり、そのことが実際の成長を後押ししたのではないか、という見方です。
原論文でも、教師の期待は特に低学年で効果が見えやすく、年少の子どもほど影響を受けやすい可能性が議論されています。
研究はどう受け止めるべきか
ここはとても大切です。
ピグマリオン効果は有名ですが、「教師が期待すれば、子どもは必ず大きく伸びる」と単純化してしまうのは正確ではありません。
この研究はその後とても大きな影響を与えましたが、方法や解釈については長年議論があり、場合によっては、教室での自己成就的予言は起こりうるが、効果は通常は小さいと整理されています。2005年のレビューでは、35年分の研究を踏まえ、教室での自己成就的予言は存在する一方、効果は典型的には小さく、時間とともに大きく積み上がるとは限らないとまとめられています。いっぽう、2024年のナラティブレビューでは、教師の信念の持ち方や教室条件によっては、一部の教室では大きな影響が出ることもあるとされています。
つまり、ピグマリオン効果は
「ある・ない」の二択で片づける話ではなく、条件によって強さが変わる
と考えるのがよさそうです。
この慎重さは、子育てでも大事です。
親が前向きに見ていれば絶対に大丈夫、という話でもなければ、少し不用意な言葉を言ってしまっただけで全部が決まる、という話でもありません。けれど、大人の期待は、日常の関わりを通して確かに子どもに届く。この点は、今も十分に意識する価値があります。
ピグマリオン効果とレジリエンスの関係
ここで、今回のテーマを前回の記事とつなげてみます。
レジリエンスは「困難な経験にうまく適応していく過程と結果」と定義されています。つまり、失敗やストレスがあっても、そこから持ち直し、折れきらずに進んでいく力です。
では、ピグマリオン効果はレジリエンスとどう関係するのでしょうか。
ここは直接「ピグマリオン効果=レジリエンス」ではありません。
ただ、大人の期待が、子どもの“自分はやれば変われる”という感覚を支えるなら、それはレジリエンスを育てる土台になりうる、と考えることができます。これは、教師期待が子どもの自己概念や内発的価値の変化と関連したという近年の研究と、レジリエンスを適応の過程とみる定義をつなげた解釈です。
たとえば、子どもが失敗したときに
- 「やっぱり向いていないね」と見るか
- 「今はまだ難しいけれど、工夫すれば伸びる」と見るか
で、その後の関わり方は大きく変わります。
そして関わり方が変われば、子どもが失敗をどう意味づけるかも変わってきます。
前回の記事では、子どもが失敗から無力感に向かうのではなく、エゴレジリエンスを育てていくことの大切さを扱いました。今回の視点を加えると、そのしなやかさは子ども一人の努力だけでできるものではなく、教える側の期待と支えの中でも育つと言えます。教師の期待は、少なくとも動機づけの変化には関係していることが近年の研究で示されています。
※レジリエンスについてはカテゴリー「レジリエンス」でまとめています。レジリエンス─折れても、また立ち上がれる子に
幼児教育・子育てで大切にしたいこと
このテーマは、学校教育だけでなく、幼児教育や家庭での子育てにもとても関係があります。むしろ、低年齢の子どもほど、大人のまなざしや言葉の影響を強く受けやすい面があります。原研究でも、効果は特に低学年で目立ったと報告されており、この点が早期教育や幼児期の関わりを考えるうえでしばしば参照されます。もっとも、先ほど見たように、その強さを過大評価しない慎重さは必要です。
では、家庭では何を意識すればよいのでしょうか。
1. 「期待する」と「プレッシャーをかける」は違う
ここはとても大切です。
ピグマリオン効果で言う「よい期待」は、
高すぎる要求を押しつけることではありません。
「あなたなら100点を取れるはず」
「できて当然」
という圧は、子どもを支えるより、追い詰めてしまうことがあります。
そうではなく、
今はまだ途中でも、伸びる余地があると信じること、
失敗しても見切らないこと、
やり直しのチャンスを与えること、
これが大切です。教師期待の研究でも、重要なのは期待そのものというより、それがどんな学習環境や関わりとして表れるかだと考えられています。
2. 子どもを「固定した評価」で見ない
「この子は集中力がない」
「この子は算数が苦手」
と早く決めつけるほど、大人の関わりは狭くなります。
一方で、
「今日は集中が切れやすかった」
「この単元は苦手だけれど、別のやり方なら分かるかもしれない」
という見方ができると、接し方は柔らかくなります。
子どもは、大人が思っている以上に、
自分がどう見られているかを感じ取っています。
だからこそ、評価を固定しないことは、子どもの挑戦心を守るうえでとても大切です。教師の期待は、学業成績だけでなく自己概念にも関係することが報告されています。
3. 小さな変化を見つけて言葉にする
ピグマリオン効果は、壮大なほめ言葉よりも、
日々の小さなまなざしのほうに表れやすいのかもしれません。
- 前より少し長く座れた
- 今日は最後まで聞けた
- 失敗しても前より切り替えが早かった
こうした変化を見つけて伝えることは、子どもに
「見てもらえている」
「伸びている部分がある」
という感覚を与えます。
その積み重ねが、子どもの
やってみよう
また挑戦してみよう
という気持ちにつながっていきます。近年の研究では、教師期待が子どもの内発的価値や有能感の変化と結びついていました。
4. 幼児教育では「先回り」しすぎない
幼児期は、できないことも多い時期です。
だからこそ大人は、つい先回りして助けたくなります。
もちろん必要な援助は大切ですが、何でも先に整えすぎると、子どもは
「自分でやる前に大人が決めるものだ」
と学びやすくなります。
反対に、少し待つ、少し考えさせる、少し任せる。
そのうえで、うまくいかなかったときは支える。
こうした関わりは、
期待されながら挑戦する経験
を子どもに与えます。
これは、ピグマリオン効果を家庭の言葉に訳すなら、
「あなたには成長する力があると伝わる関わり」
と言ってよいかもしれません。原研究でも、年少の子どもは教師の期待により影響を受けやすい可能性が議論されていました。
※参考にしてください。【早く教えれば伸びる?】ゲゼルの双生児実験から考える
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)