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錯覚から脱錯覚へ 子どもが現実と向かい合うための子育て

錯覚から脱錯覚へ 子どもが現実と向かい合うための子育て

子どもは、生まれてすぐに現実を大人と同じように理解しているわけではありません。
最初は、自分の欲求と世界がぴったり重なるような体験の中で育っていきます。

お腹がすいたら、ミルクがくる。
泣いたら、抱っこしてもらえる。
不安になったら、そばに来てもらえる。

こうした経験の中で、赤ちゃんは
「自分の思いが世界に届く」
「自分は守られている」
という安心感を育てていきます。

この考え方を理解するうえで大切なのが、精神分析家ウィニコットの錯覚脱錯覚という考え方です。
少し難しい言葉ですが、子育てに置き換えると、とても大切な視点になります。

目次

  1. ウィニコットとは?
  2. 錯覚とは?
  3. 脱錯覚とは?
  4. 子育てでは「十分な錯覚」から「少しずつ脱錯覚」へ
  5. 家庭で大切にしたい関わり方
  6. まとめ:現実と出会うには、安心できる土台が必要

ウィニコットとは?

ウィニコット、正式にはドナルド・ウッズ・ウィニコットは、イギリスの小児科医であり精神分析家です。子どもの発達、親子関係、遊び、移行対象、そして「ほどよい母親」「ほどよい養育環境」といった考え方で知られています。英国精神分析協会も、ウィニコットを小児科医であり精神分析家だった人物として紹介しています。

ウィニコットの考え方で特徴的なのは、完璧な親を求めないことです。
子どもにとって大切なのは、失敗しない親ではなく、子どもの状態に気づき、必要なときに応答し、少しずつ子どもが現実と出会えるように支える大人です。

保護者にとっても、少しほっとする考え方です。
子育ては、毎日100点を取り続ける試験ではありません。むしろ、親も子も一緒に調整しながら進んでいくものです。

※ ウィニコットに関してはこちらを参考にしてください。ウィニコットの理論に学ぶ、安心から始まる子育てと幼児教育

子どもの愛着形成について

錯覚とは?

ウィニコットのいう錯覚とは、簡単に言うと、赤ちゃんが
「自分が望んだから、世界が応えてくれた」
と感じるような体験です。

たとえば、お腹がすいた赤ちゃんが泣いたとします。
そこに養育者がやってきて、ミルクや授乳をしてくれる。

赤ちゃんにとっては、
「自分が求めたら、ちょうどよく満たされた」
という体験になります。

もちろん、実際には大人が気づき、準備し、応答しています。
でも赤ちゃんの側から見ると、まるで自分の欲求が世界を動かしたように感じられるのです。

ウィニコットは、養育者が赤ちゃんの欲求にほどよく適応することで、赤ちゃんは外の現実が自分の創造と重なっているかのような錯覚を持つと説明しました。

この錯覚は、悪いものではありません。

むしろ、乳幼児期の初めにはとても大切です。
「自分の求めは届く」
「世界は自分に応えてくれる」
「自分は大切にされる存在だ」

この感覚が、子どもの安心感や自己の土台につながっていきます。


脱錯覚とは?

脱錯覚とは、子どもが少しずつ、
「世界は自分の思い通りに動くだけではない」
と知っていく過程です。

たとえば、

  • 欲しいものがすぐにはもらえない
  • 眠くても、もう少し待つ場面がある
  • おもちゃは友達も使いたい
  • 親にも都合がある
  • 思い通りにならないことがある

こうした経験を通して、子どもは少しずつ現実と出会っていきます。

ただし、ここで大切なのは、急に突き放すことではありません。

「世の中は思い通りにならないんだから、我慢しなさい」と急に現実を押しつけても、子どもの心は受け止めきれません。

脱錯覚は、安心できる関係の中で、少しずつ進むものです。
ウィニコットに関する日本ウィニコット協会の解説でも、赤ちゃんの錯覚はやがて脱錯覚されなければならない一方で、錯覚の経験は創造性の基礎として生き残ると説明されています。

つまり、錯覚は消してしまうものではありません。
子どもの中で、遊びや創造性、自分らしさの土台として残っていくものでもあります。


子育てでは「十分な錯覚」から「少しずつ脱錯覚」へ

子育てで大切なのは、いきなり脱錯覚させることではありません。
まずは、子どもが十分に
「自分は応えてもらえる」
「自分の気持ちは受け止めてもらえる」
と感じることです。

そのうえで、少しずつ現実と出会っていきます。

たとえば、赤ちゃんのころは泣いたらすぐに抱っこしてもらう経験が必要です。
でも少し大きくなると、
「今手を洗っているから、終わったら抱っこするね」
「あとで一緒にやろうね」
と、少し待つ経験も入ってきます。

これは冷たい対応ではありません。
むしろ、安心できる関係があるからこそ、子どもは少しずつ待つことや、他者にも都合があることを学べます。

ここを表にすると、次のようになります。

発達の流れ子どもの体験大人の関わり
錯覚求めたら応えてもらえる泣き声や表情に気づき、応答する
少しずつ脱錯覚すぐに思い通りにならないこともある気持ちを受け止めながら、待つ経験を支える
現実との出会い自分と他者は違う存在だと知るルールや相手の気持ちをやさしく伝える
創造性へ現実の中で遊び、工夫する見立て遊びや表現を大切にする

子どもは、十分に甘えたあとで、少しずつ現実に向かっていきます。
「甘えさせたら自立できない」のではありません。
安心して甘えられるからこそ、現実の世界に出ていけるのです。

参考(日本ウィニコット協会)日本ウィニコット協会「協会について」


家庭で大切にしたい関わり方

錯覚から脱錯覚への流れを子育てに活かすなら、ポイントは3つです。


1. まずは気持ちを受け止める

子どもが泣いたり怒ったりしたとき、すぐに正論を伝えるよりも、まず気持ちを受け止めます。

「嫌だったね」
「まだ遊びたかったね」
「抱っこしてほしかったんだね」

気持ちを受け止めてもらうことで、子どもは安心します。
その安心があるからこそ、次の言葉が入りやすくなります。


2. 現実は少しずつ伝える

気持ちを受け止めたあとで、現実を伝えます。

「でも、今はごはんの時間だよ」
「お友達も使っているから、順番にしようね」
「今すぐはできないけれど、終わったら一緒にやろうね」

大切なのは、子どもの気持ちを否定しないことです。

「そんなことで泣かないの」
「わがまま言わないの」
と切ってしまうと、子どもは現実を学ぶ前に、自分の気持ちを閉じ込めてしまうことがあります。


3. 遊びや想像の世界を大切にする

錯覚の体験は、やがて遊びや創造性にもつながります。

積み木を電話にする。
空のお皿にごはんがあるつもりで遊ぶ。
ぬいぐるみに布団をかける。

こうした遊びは、現実から逃げているのではありません。
子どもが現実と想像の間で、自分の世界を広げている大切な時間です。

ウィニコットは「移行対象」や「遊ぶこと」を重視しました。移行対象とは、ぬいぐるみや毛布など、子どもが安心を得るために大切にするものとして説明されます。これは、子どもが完全に一体だった世界から、少しずつ外の世界へ向かっていく過程に関わります。

子どものお気に入りのタオルやぬいぐるみは、大人から見ると「ただの物」に見えるかもしれません。
でも子どもにとっては、安心と現実をつなぐ大切な相棒です。
大人で言えば、スマホの充電器くらい大事かもしれません。ないと、心がざわつきます。


まとめ:現実と出会うには、安心できる土台が必要

ウィニコットの錯覚と脱錯覚は、子育てを考えるうえでとても大切な視点です。

錯覚とは、赤ちゃんが
「自分の求めに世界が応えてくれる」
と感じるような体験です。

脱錯覚とは、子どもが少しずつ
「世界は自分の思い通りだけではない」
と知っていく過程です。

大切なのは、最初から現実を押しつけることではありません。
まずは十分に応えてもらい、安心し、自分の存在を受け止めてもらうこと。
そのうえで、少しずつ待つこと、順番、相手の気持ち、現実のルールに出会っていくことです。

子どもは、安心の中で現実に向かいます。
抱っこされ、受け止められ、少し待ち、また受け止められる。
その繰り返しの中で、子どもは自分と世界との関係を学んでいきます。

親は完璧である必要はありません。
大切なのは、子どもの気持ちに気づき、できる範囲で応え、少しずつ現実へ橋をかけてあげることです。

錯覚から脱錯覚へ。
それは、子どもが安心の世界から、現実の世界へ歩き出すための大切な発達の道のりです。


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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)

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