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子どもが失敗でやる気をなくすのはなぜか

子どもが失敗でやる気をなくすのはなぜか

学習性無力感・エゴレジリエンスから考える、親の関わり方

「うちの子、すぐにあきらめてしまう」
「失敗すると、やる前から“もう無理”と言ってしまう」
そんな姿を見て、子どものやる気が気になっている保護者の方は多いのではないでしょうか。

子どもの“やる気”は、その場の勉強だけの問題ではありません。
これから先の学習意欲や、自分で立て直す力にもつながっていきます。

今回は、発達心理の観点から、できるだけ分かりやすく整理していきます。
心理学の話ですが、難しい専門用語としてではなく、日々の子育てに引き寄せて読めるようにお伝えします。

目次

  1. 子どもの「やる気がない」は本当にやる気の問題なのか
  2. 学習性無力感とは何か
  3. セリグマンは何を明らかにしたのか
  4. エゴレジリエンスとは何か
  5. 学習性無力感とエゴレジリエンスの関係
  6. 周囲からの支援や養育はなぜ重要なのか
  7. エゴレジリエンスにつなげる親の関わり方

子どもの「やる気がない」は本当にやる気の問題なのか

子どもが宿題に手をつけない。
少し難しい問題が出ると「どうせできない」と言う。
負けたり間違えたりすると、急に不機嫌になる。

こうした姿を見ると、大人はつい
「もっと頑張ればいいのに」
「やる気が足りないのでは」
と考えてしまいがちです。

しかし実際には、子どもが無気力に見えるとき、心の中では
「頑張っても変わらない」と感じていることがあります。

ここで大切なのは、子どもの行動だけを見て「怠けている」と決めつけないことです。失敗の経験が積み重なると、子どもは「努力と結果がつながる」という感覚を持ちにくくなります。学習性無力感は学業場面にも応用されてきた考え方であり、逆にエゴレジリエンスは学業の自己調整に必要な資源とも関連づけられています。


学習性無力感とは何か

学習性無力感とは、
何度も「自分では変えられない」「どうしても避けられない」と感じる経験をすると、あとで状況を変えられる場面が来ても、自分から動けなくなってしまうことです。セリグマンの研究では、避けられない不快刺激を経験した後、逃げられる状況でも行動しにくくなる現象として示されました。

子どもの生活に当てはめると、たとえばこんな場面です。

  • 勉強しても点が伸びず、「どうせ無理」と思う
  • 何をしても注意され、「自分はダメなんだ」と感じる
  • 何度挑戦しても失敗し、最初からやろうとしなくなる

ここで重要なのは、学習性無力感は単なる甘えではない、ということです。
本人の中では、「やらない」のではなく「やっても意味がないと感じている」状態に近いのです。

※参考 (ブリタニカ) 学習性無力感


セリグマンは何を明らかにしたのか

学習性無力感を語るうえで欠かせないのが、心理学者のマーティン・E・P・セリグマンです。セリグマンはアメリカの心理学者で、ペンシルベニア大学で研究を行い、学習性無力感の理論を広く知られるものにしました。

セリグマンの考えで特に大切なのは、
人は失敗そのものだけでなく、その失敗をどう説明するかによって、その後の意欲が変わるという点です。

APAの心理学辞典では、セリグマンの学習された楽観性は、悪い出来事を「外的」「一時的」「特定的」に説明するスタイルとして整理されています。逆に悲観的な受け止め方では、「自分のせいだ」「ずっと続く」「何もかもダメだ」と広がりやすくなります。

たとえばテストで失敗したときも、

  • 「今回は漢字の勉強不足だった」
  • 「今回は体調もよくなかった」
  • 「次はやり方を変えてみよう」

と受け止めるのと、

  • 「自分は頭が悪い」
  • 「どうせ何をやってもダメ」
  • 「これからもずっとできない」

と受け止めるのでは、その後の行動が大きく変わります。

つまり、子どものやる気を考えるときは、
失敗の回数だけでなく、失敗をどう意味づけているかを見る必要があるのです。


エゴレジリエンスとは何か

ここで反対側の重要な考え方として出てくるのが、エゴレジリエンスです。

エゴレジリエンスとは、簡単に言えば、
うまくいかないことがあっても、気持ちや行動を柔軟に調整しながら立て直していく力です。

研究では、エゴレジリエンスは「状況に応じて自分のコントロールの仕方を調整する動的な力」と説明され、高い子どもは変化する状況に適応しやすく、柔軟な問題解決を行いやすいとされています。反対に低い場合は、不安が高まりやすく、適応の柔軟さが乏しくなりやすいと報告されています。

少し分かりやすく言えば、エゴレジリエンスが高い子は、

  • 失敗しても気持ちを切り替えやすい
  • 別のやり方を試しやすい
  • 助けを借りながら前に進みやすい

という傾向があります。

もちろん、いつも明るく前向きでいられる、という意味ではありません。
落ち込まない子というより、落ち込んでも戻ってこられる子に近いイメージです。エゴレジリエンスは、動機づけ・感情・行動を理解するうえで重要な概念とされ、学齢期には自己調整や社会的適応とも関係づけられています。

※レジリエンスという言葉がありますが、エゴレジリエンスとは正確には違う言葉です。
 レジリエンスは「つらいことがあっても持ち直していく力」全般、エゴレジリエンスは「状況に応て気持ちや行動のコントロールを柔軟に変えられる、その人のしなやかな特性」に近いです。

 レジリエンスについてはカテゴリー「レジリエンス」でまとめています。
 レジリエンス─折れても、また立ち上がれる子に

レジリエンス(立ち直る力)

学習性無力感とエゴレジリエンスの関係

この2つは、別々の話のようでいて、実はかなり深くつながっています。

とても単純化すると、次のように整理できます。

観点学習性無力感エゴレジリエンス
失敗したとき「どうせ無理」と止まりやすい「やり方を変えよう」と立て直しやすい
結果の受け止め方自分では変えられないと感じやすい工夫や支援で変えられる余地を感じやすい
次の行動挑戦を避けやすい調整しながら続けやすい

つまり、
学習性無力感は「折れて止まる方向」
エゴレジリエンスは「しなやかに戻る方向」
の力だと考えると分かりやすいです。

子どもにエゴレジリエンスが育っていくと、失敗そのものがなくなるわけではありません。
ただ、失敗を「自分の終わり」とは受け取りにくくなります。

これは、今後の学習意欲を考えるうえでもとても大切です。
勉強でも、習い事でも、人間関係でも、成長の過程には必ず失敗があります。
そのときに毎回心が折れてしまうのか、少しずつ立て直せるのかで、長い目で見た伸び方は大きく変わってきます。学習性無力感は学業達成とも関連づけられてきた一方で、エゴレジリエンスは学業行動の自己調整に必要な資源とされています。

※関連記事です。
 「わかった!」が増える子に 子どもの「理解力」を高めるために


周囲からの支援や養育はなぜ重要なのか

ここで保護者の方にぜひ知っておいていただきたいのが、
エゴレジリエンスは、子どもひとりの根性だけで育つものではない
ということです。

研究では、子どもが感じる社会的支援がエゴレジリエンスに良い影響を与えることが示されています。学童後期の子どもを対象にした研究では、知覚された社会的支援は各時点でエゴレジリエンスに正の影響を示しました。

また、親の関わりや親子関係も重要です。別の研究では、親の態度や親子関係はエゴレジリエンスと関連し、健康的な親子コミュニケーションは、子どもがストレスへの対処法を学ぶうえで役立つとされています。反対に、ネグレクト的・拒否的・権威主義的に受け取られる養育は、エゴレジリエンスの低さと結びつくことが示唆されています。

つまり、子どもの「立ち直る力」は、
生まれつきの性格だけでなく、
「困ったときに支えてもらえる」「失敗しても見捨てられない」
という安心感の中で育っていく面が大きいのです。


エゴレジリエンスにつなげる親の関わり方

では、家庭ではどのような関わりが大切なのでしょうか。
ここは心理学の理論を、そのまま日常の言葉に置き換えて考えるのがポイントです。


1. 「結果」だけでなく「過程」を見てあげる

失敗したあとに、
「なんでできなかったの?」
だけで終わってしまうと、子どもは結果だけで自分を判断しやすくなります。

それよりも、
「どこまでは分かっていた?」
「前よりできたところはある?」
と、過程を一緒に見ていくほうが、努力と結果のつながりを感じやすくなります。

これは、無力感を強める「全部ダメだった」という受け止め方を防ぎ、失敗を“部分的で修正可能なもの”として整理する助けになると考えられます。セリグマンの説明スタイルの考え方とも整合的です。


2. 成功体験を小さく刻む

エゴレジリエンスは、「大成功」だけで育つわけではありません。
むしろ、
少し頑張ったら届いた
工夫したら前より良くなった
という小さな経験の積み重ねが大切です。

たとえば、

  • 10問全部ではなく、まず3問
  • 30分勉強ではなく、まず5分
  • 完璧を目指すのではなく、前回より1つできた

というように、課題を細かくすることで、子どもは「やれば少し変わる」と感じやすくなります。これは学習性無力感の中心にある「何をしても変わらない」という感覚を弱める方向の関わりです。


3. 失敗を「性格」にしない

子どもが失敗したときに、
「あなたは根気がない」
「本当に飽きっぽいね」
と性格そのものに結びつけてしまうと、子どもは失敗を修正可能なものではなく、固定的な自分の欠点として受け取りやすくなります。

それよりも、
「今日は疲れていたね」
「このやり方は合わなかったかもね」
「次は別の方法を試そうか」
と、「今回の出来事」として扱うほうが立て直しにつながります。

これも、悪い出来事を「ずっと」「全部」「自分そのもの」と捉えすぎないことが大切だとする説明スタイルの考え方に沿っています。


4. 助けを求めることを肯定する

エゴレジリエンスの高い子は、全部を一人で抱え込む子ではありません。
必要なときに、周囲の助けを使えることも大切です。

研究でも、社会的支援はエゴレジリエンスに良い影響を与えることが示されています。
ですから、親が
「困ったら聞いていい」
「一緒に考えていい」
という空気をつくることには大きな意味があります。


5. 親自身が「立て直す姿」を見せる

子どもは、言葉以上に大人の姿から学びます。

親が失敗したときに
「ああ、もうダメだ」
と崩れるだけでなく、
「失敗したけど、次はこうしてみよう」
「今日はうまくいかなかったけど、またやり直そう」
と見せることは、子どもにとって大きなモデルになります。

親子の健康的なコミュニケーションや肯定的な関わりが、子どものストレス対処やエゴレジリエンスと結びつくという研究知見を踏まえると、親の在り方そのものが家庭の学びになると考えられます。
失敗しても戻ってこられる子へと育てていきます。


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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)

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