造形教育とは―子どもの感性と創造性を育てる大切な遊び
子どもがクレヨンで線を描いたり、粘土をこねたり、紙をちぎって貼ったりする姿は、日常の中でよく見られます。
大人から見ると、ただ遊んでいるだけのように見えるかもしれません。しかし、こうした活動の中には、子どもの感性や創造性、手先の力、ものを見て感じ取る力が育つ大切な学びがあります。
今回は、幼児教育における「造形教育」について、わかりやすくご紹介します。
目次
- 造形教育とは
- 造形教育は情操教育として大切にされてきた
- 感性を育てる教育から、創造性を育てる教育へ
- オーストリアのチゼックと子どもの表現
- 幼児の造形教育は日常の遊びの中にある
- 造形的感覚と造形的技能を育てる意味
- 大人が大切にしたい関わり方
- まとめ
1.造形教育とは
造形教育とは、絵を描く、粘土で作る、紙を切る、貼る、積み木を組み立てるなど、形や色、素材を使った表現活動を通して、子どもの感性や表現する力を育てる教育です。
ここで大切なのは、上手な作品を作ることだけが目的ではないという点です。
子どもが素材に触れ、試し、感じ、考え、自分なりに表現する。その過程そのものに大きな意味があります。
たとえば、クレヨンを強く押しつけて線を描く、絵の具を混ぜて色の変化を楽しむ、粘土を丸めたり伸ばしたりする。こうした経験は、子どもの感覚や表現する力を少しずつ育てていきます。
2.造形教育は情操教育として大切にされてきた
造形教育は、もともと子どもの心を豊かにする「情操教育」として大切にされてきました。
情操教育とは、美しいものに心を動かしたり、自然や人への感受性を育てたり、豊かな感情を養ったりする教育です。
子どもは、描いたり作ったりする中で、
「きれいだな」
「おもしろい形だな」
「この色を使ってみたい」
「もっと作ってみたい」
という心の動きを経験します。
このような経験は、知識を覚える学びとは違います。子どもの内側から生まれる感情や興味を大切にしながら、心の成長を支えていくものです。
3.感性を育てる教育から、創造性を育てる教育へ
造形教育は、子どもの感性や精神を育てるものとして考えられてきました。
しかし、現在ではそれに加えて、「創造性を育てる教育」としての意味も重視されています。
創造性とは、特別な芸術作品を作る力だけではありません。
目の前の材料を別のものに見立てる力、うまくいかないときに違う方法を試す力、自分のイメージを形にしようとする力も、創造性の一部です。
たとえば、紙を丸めてお団子にしたり、箱を家に見立てたり、積み木を道路や電車にしたりすることがあります。
子どもは遊びながら、
「こうしたらどうなるかな」
「これも使えるかな」
「もっと大きくしてみよう」
と試行錯誤しています。
この試す力こそ、創造性の芽です。
4.オーストリアのチゼックと子どもの表現
造形教育の歴史を考えるうえで、オーストリアのフランツ・チゼックは重要な人物です。
チゼックは、子どもの絵を大人の絵に近づく前の未熟なものとして見るのではなく、子どもには子ども独自の表現があると考えました。
当時の美術教育では、手本をまねて正確に描くことが重視されることも多くありました。
しかしチゼックは、子どもが自由に表現することを大切にしました。子どもの作品には、大人とは違う価値があると考えたのです。
この考え方は、現代の造形教育にもつながっています。
子どもの絵を見て、大人がすぐに、
「ここはこう描くんだよ」
「これは違うよ」
と直してしまうと、子どもは自分の表現に自信をもちにくくなります。
それよりも、
「これは何を描いたの?」
「この色を選んだんだね」
「ここが面白いね」
と、子どもの表現を受け止めることが大切です。
参考(国立芸術教育アーカイブ)フランツ・チゼク
5.幼児の造形教育は日常の遊びの中にある
幼児期の造形教育は、特別な時間だけに行われるものではありません。
日常の遊びの中に、造形教育の種はたくさんあります。
たとえば、
・砂場で山やトンネルを作る
・葉っぱや石を集めて並べる
・粘土をこねる
・紙をちぎる
・積み木で家や道を作る
・絵の具やクレヨンで描く
・空き箱で何かを作る
こうした活動は、すべて造形的な遊びです。
幼児は遊びの中で、形、色、大きさ、重さ、手触り、バランスなどを感じ取っています。
つまり、造形教育は机に向かって作品を作る時間だけではありません。子どもが身の回りのものに触れ、感じ、工夫しながら遊ぶ日常そのものの中にあります。
6.造形的感覚と造形的技能を育てる意味
造形教育では、「造形的感覚」と「造形的技能」を育てることも大切です。
造形的感覚とは、色や形、素材、バランス、手触りなどを感じ取る力です。
「この色きれい」
「この形おもしろい」
「こっちはざらざらしている」
「高く積むと倒れそう」
このような気づきが、造形的感覚につながります。
一方、造形的技能とは、手や指を使って、描く、切る、貼る、折る、丸める、組み立てるといった力です。
幼児期にこうした経験を重ねることは、手先の器用さだけでなく、集中力や工夫する力にもつながっていきます。
また、自分の考えたものを形にする経験は、子どもにとって大きな喜びになります。
「自分でできた」
「思ったものが形になった」
という経験は、自己肯定感にもつながります。
7.大人が大切にしたい関わり方
造形教育で大人が大切にしたいのは、完成した作品の上手・下手だけを評価しないことです。
幼児期の造形活動では、結果よりも過程が大切です。
どんな素材を選んだのか。
どのように試したのか。
何を感じていたのか。
どんな工夫をしていたのか。
そこに目を向けることで、子どもの育ちが見えてきます。
大人は、
「上手だね」
だけで終わらせるのではなく、
「たくさん色を使ったね」
「ここを何度も考えて作ったんだね」
「この形、おもしろいね」
「どうやって作ったの?」
と声をかけるとよいでしょう。
子どもは、自分の表現を受け止めてもらうことで、さらに表現することを楽しめるようになります。
8.まとめ
造形教育は、絵や工作を上手にさせるためだけの教育ではありません。
子どもが素材に触れ、形や色を感じ、自分なりに考え、表現する中で、感性や精神、創造性が育っていきます。
かつては心を豊かにする情操教育として大切にされ、現在では創造性を育てる教育としても重要視されています。
また、チゼックが子ども独自の表現を大切にしたように、幼児の造形活動には、その時期にしか見られない価値があります。
造形教育は、特別な作品作りの時間だけではありません。
描く、作る、並べる、ちぎる、こねる、組み立てる。そうした日常の遊びの中で、子どもの造形的感覚や造形的技能は育っていきます。
大切なのは、大人の正解に近づけることではなく、子どもが自分の感じたことを、自分なりに表現する経験を守ることです。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)