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乳幼児も「まとめて記憶」し始める?

乳幼児も「まとめて記憶」し始める?

1歳児に見られる、記憶のまとまりをつくる力

子どもの記憶は、ただ情報をためこむだけではありません。
1歳前後の乳幼児でも、見たもの・聞いたものを「まとまり」として整理しながら覚え始めます。
この力は、やがて言葉の理解、生活習慣、遊び、学習の土台になっていきます。


目次

  1. 記憶は「そのまま入れる箱」ではない
  2. 1歳児も、記憶の中で「まとまり」をつくっている
  3. リサ・ファイゲンソンとジャスティン・ハルバーダの実験
  4. 「猫が2つ、車が2つ」なら覚えやすくなる
  5. 言葉がまだ十分でなくても、まとまりをつくれる
  6. 空間的なまとまりも、記憶を助ける
  7. 日常生活でも、子どもは「まとまり」で覚えている
  8. 「覚えさせる」より、「まとまりやすくする」
  9. 学習を支える記憶システムは、少しずつ育っていく
  10. 保護者に知っておいてほしいこと

記憶は「そのまま入れる箱」ではない

前回の記事では、子どもの記憶がどのように発達していくのかを見てきました。

今回のテーマは、その続きです。

私たちは何かを覚えるとき、情報を一つひとつバラバラに覚えているわけではありません。

たとえば、電話番号を覚えるときに、

09012345678

と続けて覚えるよりも、

090-1234-5678

のように区切った方が覚えやすくなります。

買い物でも同じです。

「牛乳、卵、ヨーグルト、豆腐、納豆、洗剤、ティッシュ」と覚えるよりも、

  • 冷蔵品
  • 大豆製品
  • 日用品

というように、頭の中で自然にグループ分けして覚えることがあります。

このように、複数の情報をまとまりとして整理して覚えることを、心理学では「チャンク化」と呼びます。英語の chunk は「かたまり」という意味です。電話番号を区切ると覚えやすくなる例は、ジョンズ・ホプキンス大学による研究紹介でも、チャンク化の身近な例として説明されています。

少し難しく聞こえますが、要するに、記憶の中で情報を「小分けにして、まとまりとして扱う」働きです。

そして興味深いのは、この力が大人になってから急に身につくものではない、ということです。

子どもの記憶について

1歳児も、記憶の中で「まとまり」をつくっている

大人は、経験や知識を使って情報を整理します。

「これは食べ物」
「これは乗り物」
「これは動物」
「これはいつもお風呂の前にすること」

このように、世界をカテゴリーに分けながら理解しています。

では、まだ言葉でうまく説明できない乳幼児はどうでしょうか。

「まだ話せないから、ただ見たものをぼんやり覚えているだけでは?」

そう思うかもしれません。

しかし、研究から見えてくるのは少し違います。
14カ月頃の子どもでさえ、目の前の情報をただ受け取るだけではなく、似ているもの同士をまとめたり、位置関係を手がかりにしたりしながら、記憶を効率よく使っている可能性が示されています。

つまり、乳幼児の頭の中では、すでに小さな「整理整頓」が始まっているのです。

おもちゃ箱の中は散らかっていても、頭の中では案外きれいに分類している。
大人の部屋より優秀かもしれません。


リサ・ファイゲンソンとジャスティン・ハルバーダ の実験


14カ月児は、どうやって多くのものを覚えたのか

このテーマで有名なのが、リサ・ファイゲンソンとジャスティン・ハルバーダによる2008年の研究です。論文タイトルは “Conceptual knowledge increases infants’ memory capacity” で、PNASに掲載されました。研究では、14カ月の乳幼児が、概念的・知覚的・言語的・空間的な手がかりを使うことで、記憶できる対象数を増やせるかが調べられました。

実験の大まかな流れは、次のようなものです。

子どもに複数のおもちゃを見せます。
そのおもちゃを箱の中に隠します。
その後、子どもに箱の中を探させます。

もし子どもが「まだ中にあるはず」と覚えていれば、箱の中を長く探します。
逆に、もう全部出てきたと思っていれば、あまり探し続けません。

この「探し続ける時間」を見ることで、子どもがどれくらい対象を覚えていたのかを推測する方法です。

研究では、何のまとまりも手がかりもない場合、14カ月児が一度に追跡できる隠された物の数には限界があり、3つ程度とされました。しかし、4つの物が「2つずつのまとまり」として理解できる状況では、子どもはその限界を超えて記憶できることが示されました。

※参考(PNAS)概念的知識は乳児の記憶容量を増加させる


「猫が2つ、車が2つ」なら覚えやすくなる

たとえば、4つのおもちゃがすべてバラバラに見えると、子どもにとっては、

「1つ、2つ、3つ、4つ」

と、それぞれを別々に覚えなければなりません。

しかし、それが

「猫が2つ、車が2つ」

のように見えると、

「猫のまとまり」
「車のまとまり」

として記憶しやすくなります。

リサ・ファイゲンソンとジャスティン・ハルバーダの実験では、14カ月児が、2種類の物が2つずつある場合には、4つの対象をよりよく記憶できることが示されました。一方で、4つが同じ種類のものとして見える場合には、同じような記憶の広がりは見られませんでした。

これは、子どもが単に「たくさんあった」と覚えているだけではなく、
似ているもの同士をまとめて、記憶の負担を軽くしていることを示しています。


言葉がまだ十分でなくても、まとまりをつくれる

さらに興味深いのは、14カ月という年齢です。

14カ月の子どもは、言葉を少しずつ理解し始めていても、自分の考えを大人のように言語化することはできません。

それでも、研究では、乳幼児が知覚的な手がかり、概念的な手がかり、言語的な手がかり、空間的な手がかりを使って、より多くの対象を記憶できることが示されました。論文の要約でも、十分な言語能力や明確な指導がなくても、このような記憶の働きが見られると説明されています。

つまり、子どもは大人から、

「こうやってまとめて覚えるんだよ」

と教えられなくても、すでに自分なりに情報を整理し始めているのです。

これは、乳幼児の学びを考えるうえでとても大切です。

子どもは、ただ刺激を受け取っている存在ではありません。
目の前の世界を見て、比べて、似ているものを見つけ、まとまりをつくりながら理解しようとしています。


空間的なまとまりも、記憶を助ける

この研究では、物の種類だけでなく、並び方や位置関係も記憶を助けることが示されています。

たとえば、6つの同じボールがあるとします。

これがただ一列に並んでいるだけだと、子どもにとっては「6つのバラバラな物」として処理しなければなりません。

しかし、

2つずつ、3つのグループ

として配置されていると、

「2つのまとまりが3つある」

という形で覚えやすくなります。

実験では、6つの物が3組の2つとして提示された場合、14カ月児はよりよく記憶できました。一方で、6つが一つの大きなまとまりとして提示された場合には、同じようには記憶できませんでした。

これは、子どもにとって「見え方」や「置かれ方」が、記憶のしやすさに大きく関わることを示しています。


日常生活でも、子どもは「まとまり」で覚えている

この研究は実験室で行われたものですが、日常生活にもつながります。

たとえば、子どもは毎日の生活の中で、少しずつ順番やまとまりを覚えていきます。

「ごはんの前には手を洗う」
「お風呂の後はパジャマを着る」
「靴を履いたら外に行く」
「絵本を読んだら寝る時間」

こうした流れは、最初から言葉で理解しているわけではありません。

繰り返し経験する中で、

「これは一連の流れなんだ」
「これはセットなんだ」
「これは同じ仲間なんだ」

と、子どもなりにまとまりをつくって覚えていきます。

おもちゃでも同じです。

車のおもちゃを並べる。
ぬいぐるみを集める。
積み木を色や形で分ける。
お気に入りのものだけを一か所に置く。

大人から見ると、ただ遊んでいるように見える行動の中にも、子どもなりの分類や記憶の整理が含まれていることがあります。


「覚えさせる」より、「まとまりやすくする」

この発達を知ると、保護者ができる関わりも見えてきます。

大切なのは、無理にたくさん覚えさせることではありません。

むしろ、子どもが覚えやすいように、世界を少しだけ整理してあげることです。

たとえば、

「赤い車だね」
「こっちはワンワン、こっちはニャンニャンだね」
「これはお風呂で使うものだね」
「ごはんのあとに歯みがきしようね」

このような声かけは、単なる説明ではありません。

子どもが目の前のものを、意味のあるまとまりとして捉える手助けになります。

もちろん、毎回きれいに教えようとしなくて大丈夫です。
生活の中で自然に、

「これは同じ仲間だね」
「これはいつも一緒だね」
「これは次にすることだね」

と伝えるだけでも、子どもの記憶の整理を支える関わりになります。


学習を支える記憶システムは、少しずつ育っていく

子どもの記憶は、成長とともに広がっていきます。

最初は、目の前のものを少しだけ覚えるところから始まります。
やがて、似ているものをまとめて覚えるようになります。
さらに、生活の流れ、言葉の意味、人とのやりとり、出来事の順番を、より長く、より複雑な形で記憶できるようになります。

これは、学習の土台そのものです。

学ぶということは、ただ新しい情報を入れることではありません。
前に経験したことと、新しく出会ったことを結びつけることです。

「前にも見た」
「これはあれと似ている」
「このあと、こうなる」
「これはこういう意味かもしれない」

こうした小さな気づきの積み重ねが、子どもの理解を深めていきます。

今回の研究が示しているのは、乳幼児の記憶が、単なる受け身の保管庫ではないということです。研究紹介でも、記憶は経験をそのままコピーするだけのものではなく、効率よく使うために再構成されていると説明されています。

子どもは、まだ言葉にできなくても、世界を整理しながら学んでいます。

※関連記事です。【子どもの記憶の土台】学習に不可欠なワーキングメモリ


保護者に知っておいてほしいこと

1歳前後の子どもは、まだ大人のように話すことはできません。
だからこそ、大人はつい、

「まだ分かっていない」
「まだ覚えていない」
「まだ教えても早い」

と思ってしまうことがあります。

けれど、子どもの内側では、すでにたくさんの学びが進んでいます。

見たものを比べる。
似ているものをまとめる。
いつも一緒に起こることを覚える。
生活の流れを少しずつ予測する。

こうした力は、目立たないけれど、とても大切な発達です。

だから、乳幼児期の関わりでは、特別な教材をたくさん用意することよりも、日々の生活の中で、子どもが世界を整理しやすいように寄り添うことが大切です。

繰り返しのある生活。
分かりやすい声かけ。
安心できる人とのやりとり。
同じ遊びを何度も楽しむ時間。

それらは、子どもの記憶と学びを支える大切な土台になります。

子どもは、今日も小さな頭の中で、世界をせっせと整理しています。
大人が思う以上に、なかなか働き者です。


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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)

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