乳幼児も「まとめて記憶」し始める?
1歳児に見られる、記憶のまとまりをつくる力
子どもの記憶は、ただ情報をためこむだけではありません。
1歳前後の乳幼児でも、見たもの・聞いたものを「まとまり」として整理しながら覚え始めます。
この力は、やがて言葉の理解、生活習慣、遊び、学習の土台になっていきます。
目次
- 記憶は「そのまま入れる箱」ではない
- 1歳児も、記憶の中で「まとまり」をつくっている
- リサ・ファイゲンソンとジャスティン・ハルバーダの実験
- 「猫が2つ、車が2つ」なら覚えやすくなる
- 言葉がまだ十分でなくても、まとまりをつくれる
- 空間的なまとまりも、記憶を助ける
- 日常生活でも、子どもは「まとまり」で覚えている
- 「覚えさせる」より、「まとまりやすくする」
- 学習を支える記憶システムは、少しずつ育っていく
- 保護者に知っておいてほしいこと
記憶は「そのまま入れる箱」ではない
前回の記事では、子どもの記憶がどのように発達していくのかを見てきました。
今回のテーマは、その続きです。
私たちは何かを覚えるとき、情報を一つひとつバラバラに覚えているわけではありません。
たとえば、電話番号を覚えるときに、
09012345678
と続けて覚えるよりも、
090-1234-5678
のように区切った方が覚えやすくなります。
買い物でも同じです。
「牛乳、卵、ヨーグルト、豆腐、納豆、洗剤、ティッシュ」と覚えるよりも、
- 冷蔵品
- 大豆製品
- 日用品
というように、頭の中で自然にグループ分けして覚えることがあります。
このように、複数の情報をまとまりとして整理して覚えることを、心理学では「チャンク化」と呼びます。英語の chunk は「かたまり」という意味です。電話番号を区切ると覚えやすくなる例は、ジョンズ・ホプキンス大学による研究紹介でも、チャンク化の身近な例として説明されています。
少し難しく聞こえますが、要するに、記憶の中で情報を「小分けにして、まとまりとして扱う」働きです。
そして興味深いのは、この力が大人になってから急に身につくものではない、ということです。

1歳児も、記憶の中で「まとまり」をつくっている
大人は、経験や知識を使って情報を整理します。
「これは食べ物」
「これは乗り物」
「これは動物」
「これはいつもお風呂の前にすること」
このように、世界をカテゴリーに分けながら理解しています。
では、まだ言葉でうまく説明できない乳幼児はどうでしょうか。
「まだ話せないから、ただ見たものをぼんやり覚えているだけでは?」
そう思うかもしれません。
しかし、研究から見えてくるのは少し違います。
14カ月頃の子どもでさえ、目の前の情報をただ受け取るだけではなく、似ているもの同士をまとめたり、位置関係を手がかりにしたりしながら、記憶を効率よく使っている可能性が示されています。
つまり、乳幼児の頭の中では、すでに小さな「整理整頓」が始まっているのです。
おもちゃ箱の中は散らかっていても、頭の中では案外きれいに分類している。
大人の部屋より優秀かもしれません。
リサ・ファイゲンソンとジャスティン・ハルバーダ の実験
14カ月児は、どうやって多くのものを覚えたのか
このテーマで有名なのが、リサ・ファイゲンソンとジャスティン・ハルバーダによる2008年の研究です。論文タイトルは “Conceptual knowledge increases infants’ memory capacity” で、PNASに掲載されました。研究では、14カ月の乳幼児が、概念的・知覚的・言語的・空間的な手がかりを使うことで、記憶できる対象数を増やせるかが調べられました。
実験の大まかな流れは、次のようなものです。
子どもに複数のおもちゃを見せます。
そのおもちゃを箱の中に隠します。
その後、子どもに箱の中を探させます。
もし子どもが「まだ中にあるはず」と覚えていれば、箱の中を長く探します。
逆に、もう全部出てきたと思っていれば、あまり探し続けません。
この「探し続ける時間」を見ることで、子どもがどれくらい対象を覚えていたのかを推測する方法です。
研究では、何のまとまりも手がかりもない場合、14カ月児が一度に追跡できる隠された物の数には限界があり、3つ程度とされました。しかし、4つの物が「2つずつのまとまり」として理解できる状況では、子どもはその限界を超えて記憶できることが示されました。
※参考(PNAS)概念的知識は乳児の記憶容量を増加させる
「猫が2つ、車が2つ」なら覚えやすくなる
たとえば、4つのおもちゃがすべてバラバラに見えると、子どもにとっては、
「1つ、2つ、3つ、4つ」
と、それぞれを別々に覚えなければなりません。
しかし、それが
「猫が2つ、車が2つ」
のように見えると、
「猫のまとまり」
「車のまとまり」
として記憶しやすくなります。
リサ・ファイゲンソンとジャスティン・ハルバーダの実験では、14カ月児が、2種類の物が2つずつある場合には、4つの対象をよりよく記憶できることが示されました。一方で、4つが同じ種類のものとして見える場合には、同じような記憶の広がりは見られませんでした。
これは、子どもが単に「たくさんあった」と覚えているだけではなく、
似ているもの同士をまとめて、記憶の負担を軽くしていることを示しています。
言葉がまだ十分でなくても、まとまりをつくれる
さらに興味深いのは、14カ月という年齢です。
14カ月の子どもは、言葉を少しずつ理解し始めていても、自分の考えを大人のように言語化することはできません。
それでも、研究では、乳幼児が知覚的な手がかり、概念的な手がかり、言語的な手がかり、空間的な手がかりを使って、より多くの対象を記憶できることが示されました。論文の要約でも、十分な言語能力や明確な指導がなくても、このような記憶の働きが見られると説明されています。
つまり、子どもは大人から、
「こうやってまとめて覚えるんだよ」
と教えられなくても、すでに自分なりに情報を整理し始めているのです。
これは、乳幼児の学びを考えるうえでとても大切です。
子どもは、ただ刺激を受け取っている存在ではありません。
目の前の世界を見て、比べて、似ているものを見つけ、まとまりをつくりながら理解しようとしています。
空間的なまとまりも、記憶を助ける
この研究では、物の種類だけでなく、並び方や位置関係も記憶を助けることが示されています。
たとえば、6つの同じボールがあるとします。
これがただ一列に並んでいるだけだと、子どもにとっては「6つのバラバラな物」として処理しなければなりません。
しかし、
2つずつ、3つのグループ
として配置されていると、
「2つのまとまりが3つある」
という形で覚えやすくなります。
実験では、6つの物が3組の2つとして提示された場合、14カ月児はよりよく記憶できました。一方で、6つが一つの大きなまとまりとして提示された場合には、同じようには記憶できませんでした。
これは、子どもにとって「見え方」や「置かれ方」が、記憶のしやすさに大きく関わることを示しています。
日常生活でも、子どもは「まとまり」で覚えている
この研究は実験室で行われたものですが、日常生活にもつながります。
たとえば、子どもは毎日の生活の中で、少しずつ順番やまとまりを覚えていきます。
「ごはんの前には手を洗う」
「お風呂の後はパジャマを着る」
「靴を履いたら外に行く」
「絵本を読んだら寝る時間」
こうした流れは、最初から言葉で理解しているわけではありません。
繰り返し経験する中で、
「これは一連の流れなんだ」
「これはセットなんだ」
「これは同じ仲間なんだ」
と、子どもなりにまとまりをつくって覚えていきます。
おもちゃでも同じです。
車のおもちゃを並べる。
ぬいぐるみを集める。
積み木を色や形で分ける。
お気に入りのものだけを一か所に置く。
大人から見ると、ただ遊んでいるように見える行動の中にも、子どもなりの分類や記憶の整理が含まれていることがあります。
「覚えさせる」より、「まとまりやすくする」
この発達を知ると、保護者ができる関わりも見えてきます。
大切なのは、無理にたくさん覚えさせることではありません。
むしろ、子どもが覚えやすいように、世界を少しだけ整理してあげることです。
たとえば、
「赤い車だね」
「こっちはワンワン、こっちはニャンニャンだね」
「これはお風呂で使うものだね」
「ごはんのあとに歯みがきしようね」
このような声かけは、単なる説明ではありません。
子どもが目の前のものを、意味のあるまとまりとして捉える手助けになります。
もちろん、毎回きれいに教えようとしなくて大丈夫です。
生活の中で自然に、
「これは同じ仲間だね」
「これはいつも一緒だね」
「これは次にすることだね」
と伝えるだけでも、子どもの記憶の整理を支える関わりになります。
学習を支える記憶システムは、少しずつ育っていく
子どもの記憶は、成長とともに広がっていきます。
最初は、目の前のものを少しだけ覚えるところから始まります。
やがて、似ているものをまとめて覚えるようになります。
さらに、生活の流れ、言葉の意味、人とのやりとり、出来事の順番を、より長く、より複雑な形で記憶できるようになります。
これは、学習の土台そのものです。
学ぶということは、ただ新しい情報を入れることではありません。
前に経験したことと、新しく出会ったことを結びつけることです。
「前にも見た」
「これはあれと似ている」
「このあと、こうなる」
「これはこういう意味かもしれない」
こうした小さな気づきの積み重ねが、子どもの理解を深めていきます。
今回の研究が示しているのは、乳幼児の記憶が、単なる受け身の保管庫ではないということです。研究紹介でも、記憶は経験をそのままコピーするだけのものではなく、効率よく使うために再構成されていると説明されています。
子どもは、まだ言葉にできなくても、世界を整理しながら学んでいます。
※関連記事です。【子どもの記憶の土台】学習に不可欠なワーキングメモリ
保護者に知っておいてほしいこと
1歳前後の子どもは、まだ大人のように話すことはできません。
だからこそ、大人はつい、
「まだ分かっていない」
「まだ覚えていない」
「まだ教えても早い」
と思ってしまうことがあります。
けれど、子どもの内側では、すでにたくさんの学びが進んでいます。
見たものを比べる。
似ているものをまとめる。
いつも一緒に起こることを覚える。
生活の流れを少しずつ予測する。
こうした力は、目立たないけれど、とても大切な発達です。
だから、乳幼児期の関わりでは、特別な教材をたくさん用意することよりも、日々の生活の中で、子どもが世界を整理しやすいように寄り添うことが大切です。
繰り返しのある生活。
分かりやすい声かけ。
安心できる人とのやりとり。
同じ遊びを何度も楽しむ時間。
それらは、子どもの記憶と学びを支える大切な土台になります。
子どもは、今日も小さな頭の中で、世界をせっせと整理しています。
大人が思う以上に、なかなか働き者です。
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執筆:中山 快(株式会社リコポ 代表)